中小企業支援研究vol2
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中小企業支援研究 別冊 Vol.221に広がるのであり、狭義の「教育」に限らず、知識の自学自習を含めた多様な場と手段に及ぶものとできる。それらを自ら求め、習得活用しようとする姿勢と意欲が重要なのである。 同時にまた、多くの実践経験が示すものは、「習う」姿勢にとどまっているのではなく、まず自分でビジネスを構想し、「事業計画」などを組み立て、他者の前で発表し、批判や評価を受けるという「主体的参加」のかたちの重要性である。自分で考え、調べ、組み立て、そしてそれを他者にわかるかたちで説明する、また自分の主観だけでは気づかなかった点、問題点や改善向上すべき点などを他者とのやりとりの中で見いだし、更なる「ブラシュアップ」をすすめる、これらのプロセスと持続する志、意欲は不可欠のものとできる*11。大学などであろうが、さまざまな講習会やセミナーであろうが、企業家の学習の場は「実践型」そのものまでいかなくても、いわゆるアクティブラーニング・「参加型」「発表と討論型」でないと意味がない。「知識」を使える「知恵」に、そして実践のきっかけと実践の課題解決に「生かす」ことこそが、企業家の学習の本質なのである。 それだから、「主体」としての自覚とそれにもとづくつよい学びの意欲、問題意識の掘り下げ、自身の手による構想立案ができないと「学習」の効果は十分には発揮できない。「教育」全般の特徴と制約に共通するところでもあるが、逆に言えば、企業家に必要なのは必ずしもかたち自体ではなく、自ら学ぼうとする意欲ある人々が集まり、構成する「場」、さまざまなコミュニティこそが重要なのかも知れない。多くの企業家たちはさまざまなきっかけからそうした場をつくり、よりどころを求め、「志」の相対化・確認、悩みの解決や知恵獲得、新たなチャンスやリゾース、取引関係等を得る機会にもしているのである*12。大学での「事業承継コース」の経験 「企業家教育」の試行錯誤*13に対し、大学で特に「後継者教育」的な活動が多く行われているとは言えない。もちろん、それは前者の内にあるとしても構わないのであるが、後継者を独自に教育するという機会はありうるし、むしろその意義や教育的な効果がより大であるということも想定できる*14。特に後継者の育成に目標を置いた教育の実情に関し、取り上げてみたい。 TV番組(NNNドキュメント2013年)で紹介された、大阪産業創造館と連携する関西学院大学の「跡継ぎゼミ」のような実例もあるが、大学の課程の一環として公式に設定実施されているのが、平成13年度に設置された高千穂大学(東京都杉並区)*15の「起業・事業承継コース」である。このコースを志願する受験者は一定の前提条件で入学を許可される場合があり、実際上後継者の立場である人を積極的に受け入れるという位置づけがある。学部の入学定員が230名なのに対し、このコースの定員は20名となっている。コース*16の必修専門科目として、「事業計画論A/B」、「中小企業経営論A/B」、「企業家論A/B」、「事業創造論A/B」が置かれ、また企業研究、ビジネ*10 『2014年版 中小企業白書』の調査では、起業しようとする人々の直面している課題や学ぶべきことなどの最多のものが「経営知識一般(財務・会計を含む)の習得」である。*11 筆者が担当している学部「事業創造論」の授業で、受講学生が各プロジェクトを組み、ビジネスプランを作成発表するなか、一チームが「コンビニ開業」を発表したので、「セブンイレブンなどに対抗して生き残っていけるような方法を考えたら」と助言したところ、「そんなことまで考えなくちゃいけないんですか、それならぼくは本当の企業家になっちゃうんじゃないですか!」と逆ギレされた。バーチャル設定下での「本当の企業家になったつもり」の動機づけというのも容易でない。*12 そうした「実践共同体」の学びの機能を手がかりにした実証事例研究が、長山(2012)、川名(2015)などである。*13 日本の大学等でよく行われている「企業家教育」に関しては、寺岡(2007)などで類型化が提起されている。筆者の実感でも、「成功した企業家に話をしてもらう」、「起業に要する基本的な知識や方法論などの学習をすすめる」、「各人の考えるモデルビジネスプランをつくり、プレゼンや討論をさせる」、「成功した企業家のもとで、「鞄持ち」などのインターンシップ修業体験をさせる」などが典型的である。欧米にあるような実際に企業を興し、経営を担うという例はほとんどない。もちろん、チャレンジショップなどを学生が主体的に起こし、運営するといった例には注目すべきだろうが。 そのうち、「成功した企業家」を呼んで話しをしてもらうというのは一番実施しやすく、それだけに主体性実践性を欠いたまま「いいお話」で終わる危険も大であろうが、その枠の中での工夫の余地もある。当人が「ありのままの」ライフヒストリー体験を「語り」、それと聞く側とが「自分史」「ふりかえり」探求などとの重ね合わせを試み、そこに双方のインタラクティブな対話をかさねていくことで、ロールモデルまでいかずとも、「等身大」の企業家像をより実感でき、おのれ自身との接点と共通性、あるいは自分の中での問題意識としての人生観職業観への問いかけのきっかけ等をつかんでいく可能性である。まず「参加」の実質化を重視する教育的観点と言えよう。これは谷口彰一氏の授業実践から得られた示唆にもとづく。*14 W.バイグレイブ教授は、2010年日本中小企業学会講演で後継者の方が企業家教育の効果が高いとしている。言うまでもなく、後継者の「学び」の機会は大学や学校に限らず、他社での「武者修行」や自社内での「修業」を含め、多々実践経験されている。*15 高千穂大学は大正3年開学の高千穂高商が前身で、100年の伝統を誇り、多くの卒業生を輩出し、そのうちには企業家・経営者も多数存在する。「後継者コース」設置の狙いとしては、これらの校友の子弟などを迎えたいという考えもあるようである。*16 大学として、このコースの位置づけを「自分で会社を興したい、実家の事業を継ぎたいなど、経営者をめざす人のためのコースです。企業経営のあり方や事業計画の立て方、有名な起業家について学ぶとともに、実際に企業研究・見学を行います。理論と実践の両面から、経営者にふさわしいスキルを習得するのが目標です」と紹介している。

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