中小企業支援研究vol2
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中小企業支援研究 別冊 Vol.222スゲーム演習、企業経営実習のような実践的なカリキュラム、「体験学習」の実施などを教育内容の特徴としている。また、最近は社会人アントレサポーターの力を生かし、卒業研究報告の審査などとともに、外部との連携と日常的なサポートを強化している。この「事業承継コース」を担ってきた鹿住倫世氏(現在は専修大学教授)、川名和美氏から、教育現場の実情を詳しく聞くことができた。 その際、基本的な問題は、入学してきた学生たちが後継者であることを十分に自覚せず、大学入学の手段視している傾向が否定できないという状況にある。大学及び教員側は、「やり手の跡継ぎ」となるべく、高い自覚と目的意識のもとで大いに学び、力をつけて卒業してほしいと考えているのだが、「一般学生」なみに「何となく」学生生活を送ろうという姿勢が容易にぬぐえない。しかしその基本的な原因は、親と当人たちのディスコミュニケーション、家業が「見えない」現実から来ることが多いと判明している。つまり、当人は将来の後継者となる可能性を理解しているものの、親などがその意味や現実を正面から語らない、見せないことに問題がある。それゆえ、事業を継ぐことをいかに「自覚」させ、主体的な学びの契機を築くかがこのコースの入り口の課題であり、入学時の「家業レポート」の作成やそれを通じた親らとの対話(「仕事」のことをはじめて親の口から聞いたとか)、大学・教員側からのフィードバックを積み重ね、「当事者意識」を高め、主体的な勉学と経験蓄積のきっかけを築くことで効果を上げているという*17。関学大の「跡継ぎゼミ」でも、同じように「家業を知る」こと、親との対話を重視している。 それとともに、「企業実習」などの機会を通じた実社会との接点、学習機会の広がりがよい循環を導いている。「やるべきこと」が見えてくるのであり、また「外」の目を通じ、自分の存在を客観視し、「就職難」にあえぐ多くの学生に比べ後継者となれる自分たちは「恵まれている」との自覚、それと裏腹の責任感と志が芽生えてくるのである。 高千穂大学事業承継コースの卒業生も200名を超えるが、フォローアップ調査などはまだ実施されていないものの、相当の成果が確認されているという。特徴的には、地方での家業事業の継承者、あるいは地方でのFCビジネス経営の後継者などが目立ち、さらに、家業を継承しながら新たなビジネスを展開するなど、事業承継と経営革新を結びつける動きも広まっているという。解釈すれば、地方都市などにおいてはそれだけ、後継者が「学べる」機会やコミュニティの場が乏しくなっていることの証とも言えよう。 卒業生の一人、地方都市で菓子製造や土産物卸売の事業を専務として継いだM氏は、商品コンセプトをだいじにした新商品の開発や販売に注力する中で、「人の話には耳を傾ける」、「人を動かすにはまず自分が動く」、「仕事とはお金を稼ぐことではなく、感動を与えることだ」、「失敗を恐れてはいけない、新しいものをたくさんつくってみよう」などの理念を実践しているという。こうした経験と思いをまた、在校生に語る機会を通じ、大学事業承継コースとしての好循環を生んでいることも特筆されよう。 このように、コミュニケーションとコミュニティ関係のうちで、「自己認識」「家業認識」を通じ、承継企業家としてのフィロソフィーとマインドをつちかっていけば、後継者たちにはむしろふさわしい文化的環境があるのであり、それをまた手がかりと学びの契機とし、「仕事のスキル」や高度な技術・専門知識体系習得などは別としても、実践的な学習方法を活用することで、企業家の能力、スキル、センス、コンピタンスを自覚的に身につけていくことも相当可能になる。ここには全体として、「企業家的態度」の形成と体化に寄与できる「企業家教育」の実践的な実例を見られるのである。それはまた、後継者たち自身の新たなコミュニティを構築するきっかけにもなるだろう。 裏を返せば、後継者だから経営の知識と方法を「起業教育」的に学べばいいというわけではない。まさに、自覚と主体的意思の確立、それにもとづく問題意識と意欲の覚醒発揮が「学習」過程構築に必要なのである。それは日本の現実の反映そのものでもあろう。*17 事業承継コースの今後としては、所定のメニューの提供以上に、学生自身の手になるプレゼンや主体的行動中心にシフトしていくことを構想している。

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