中小企業支援研究vol2
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中小企業支援研究 別冊 Vol.21二極化の進展と逆転の発想千葉商科大学商経学部教授太田 三郎 わが国企業の業績をみると、消費税率引き上げ後の需要面の弱さと円安・原油安等によるコスト負担増加によって業種・企業間、企業規模による格差が拡大している。 特に、自動車や電気機械など、海外需要の増加が波及している業種、設備投資関連の業種、公共・建設投資関連の業種、大企業の業績改善効果が及んでいる業種、円安のメリットが顕れている業種では、収益改善が顕著な企業が多い。一方、内需依存度の高い業種、住宅投資関連の業種では収益が芳しくない企業が多い。 企業規模別・性別にみた所得格差の顕著化、正規社員と非正規社員との格差拡大、国別のGDP格差は、先進国と新興国との間で見られ、先進国でも、比較的好調な米国と日本に対して、欧州の脆弱化が対照的である。欧州の中でもドイツの好調さと対比して、ギリシャの弱さが際立つ。新興国の中でもインドの好調さとは対照的にブラジル経済の低迷など、「二極化現象」がみられる。 わが国経済も「都市部と地方」、「大企業と中小企業」、「業種間の格差」、「円安を享受できる企業、出来ない企業」といった「二極化現象」が顕在化している。今後、これら二極に分かれた格差拡大の是正が急務といえる。 大都市圏への人口の一極集中による地方の急激な人口減少は、わが国経済に暗い影を落としている。都市部への一極集中化による地方の人手不足、大企業志向のなかで中小企業、特に建設業や介護・医療分野など一部業種での人手不足が叫ばれている。 こんにち、大都市圏への人口の一極集中のなかで、地方活性化に向かうための「地方創生」が大きくクローズアップされている。これは安倍政権の重要政策の1つで、その根拠となる法律は「まち・ひと・しごと創生法」(平成26年11月28日法律第136号)である。この法律は、いわば、地方に存在する自治体や中小企業を活性化するとともに、都市部への人口集中や地方との所得格差・賃金格差など、「二極化現象」を是正するための法律といえる。今後、二極化現象を是正するには、特に中小企業は、これまでとは異なる発想の転換が必要となる。 逆転の発想で再生を果たした企業を事例としてあげれば、山口県岩国市にある旭酒造株式会社は、「獺祭」(だっさい)という清酒を製造・販売する中小企業であるが、世界各国に販路を広げ、グローバル化で成功を収めている。また、人口増減率が低い秋田県に、高齢者人口を増やそうとしているNPOがある。高齢者が増えれば介護にかかわる産業が育ち、やがてその地域全体が拡大する、という考え方である。さらに、株式会社マキオは、1997年に過疎化・高齢化が進む鹿児島県阿久根市に、小売業の常識を否定した24時間営業の大規模小売店を開店し、顧客・地域貢献第一主義、利益第二主義の経営を貫き、躍進を続けている。 顧客のニーズをきめ細かく分析し、市場を海外にも求め、需要の創出で成功を収めた旭酒造株式会社、人口減少に悩む秋田県で展開する高齢者人口増による新規産業(医療・福祉産業等)の創出を企てるNPO、過疎化、高齢化が進む地方市町に24時間営業の大規模小売店を開店し、躍進する(株)マキオ。これらの組織活動は、逆転の発想に基づくものであるが、それは全て顧客もしくは地方への社会貢献・ニーズに重点を置いた、ビジネスの基本的発想ともいえる。 これからは過去のデータ(情報)にとらわれず、すべてに発想の転換が必要となる。新たなニーズや付加価値を生み出すためには、大企業に負けない独自性を発揮した「逆転の発想」が、中小企業に求められているのである。注 本稿の詳細内容は『企業倒産調査年報』(一般財団法人 企業共済協会, 平成27年版)序章に掲載予定である。注

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