中小企業支援研究vol2
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中小企業支援研究 別冊 Vol.24営業担当には『お客さまにありがとうって言われることをしよう。結果としての損得は、後から考えよう』と言ってあげます。柴田 神輿製作という「伝統工芸」事業を継続していく上で、中䑓社長が一番大事にされているポイントは。中䑓 「格好悪いことはしない」こと。つまり、「利益追求だけではない」ということになるのでしょうか。ある顧客の次回の神輿製作機会が来るのが30〜40年後になるのでしょうが、今でも『親父(先代)元気かぁ?』とやって来るお客さまもいます。私達に「信用」があれば、次世代に事業は継続していけるものです。次の世代が神輿の蓋を開けた時に、『先代達はこんな素晴らしい仕上げをしてくれていたのか』と。さらに言えば、今のお客さまに『お前の先代には世話になってよぉ』と言われたら、私達も頑張ろうと思います。とにかく、今、私達ができることは、お客さまに喜んでもらうことしかありません。それがあれば、事業は必ず継続していけるのです。結局、事業承継は理屈や数字ではなく、自分が本当にこの商売で生きていくと思うか、思わないかだけだと思います。その腹を括れるのか括れないのか、その覚悟があるのかないのかが問われているのです。柴田 神輿の製作から修復・保管という、御社が志向する継続的取引のビジネスモデルについて教えて下さい。中䑓 何十年に一回の神輿修復の機会を逃すと、当社に話は来ないのです。そのタイミングを逃さないためにも「質」を取るしかありません(笑)。例えば、『神輿のことはお前に頼むよ』というお客さまが500件から1000件いれば、そのうちの5〜10%リピート化するだけでも継続的な取引が期待できるビジネスモデルとなり、その構築を目指してこの10年ほど考えて続けています。齊藤 顧客管理や販路拡大の方法を教えて下さい。中䑓 顧客管理は、当社のオリジナルシステムを稼働させています。20数年前のデータも全て一括管理して、営業担当に全部のお客さまの情報を更新・伝達させています。販路拡大は、現在はほとんどがクチコミや紹介で仕事をいただくことが多いです。また、お祭りの時には当社オリジナルデザインのはっぴ姿で、お祭り現場に直接うかがって神輿のパンフレットを配布しています。齊藤 紹介であっても、やはり信用は大事ですからね。中䑓 昔の職人気質の業者は「素人には分からないから大丈夫だ」という世界でした。確かに中には、手を抜いて利益を出す業者がいたかもしれませんが、私は『お客さまに正直でありたいと思っています。「新人も先輩社員も伸びる」中䑓流人材育成方法柴田 御社には若い職人もいらっしゃいますが、人材確保や人材育成方法の取り組みについて教えて下さい。中䑓 昔は、「基本、職人は見て覚えろ」というのが当たり前の世界でしたが、それでは、若い人材は育たないのです。ある程度は手取り足取り教えます。要するに、どうしたら使える職人になれるのか、このことをマンツーマンで教えます。齊藤 専門的なことを教えるには、職人からでないと教えられないのではありませんか。中䑓 新人の職人には『どこの担当をやりたいか』を聞いて、そこの仕事を任せます。担当の先輩職人には『育てろよ』と教育を任せます。ある程度任せられる、いわゆる中堅クラスの職人は何人かいます。そうして任せると、先輩の担当職人達にとっても良い効果があるのです。彼等の気持ちや姿勢も締まるのです。ダラダラしていられないとなって、意外な相乗効果があるのです。柴田 やはり、「人に教える」ということは、自らも分かってなくてはできないという部分がありますね。中䑓 職人は自分の感覚で覚えたものを噛み砕いてどう伝えるかということを、もう一回考え直すことで自分が至らなかったところが見えたりするものです。私自身もそうでした。したがって、先輩の担当職人にはそれをやらせます。やらせてみて、新人の職人の教育結果に対して『どのような指導をしたのか』と、個別に聞いてみます。私は、新人の職人が採用面接時に、『当社の教育その他の仕組みはこうなっているよ』と最初に話をして、それでも『やりたいです』と回答があれば『では、明日から来て下さい』と入社を認めます。そこまでが、社長である私の役割です。なお、新入社員の採用は、ほぼ紹介か、個人的な知り合いか、近所で興味があって入社希望で来社された方等様々です。美麗な装飾が完成し、発注者の迎えを待つ御輿

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