中小企業支援研究vol3
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中小企業支援研究 別冊 Vol.318はじめに わが国の起業活動は低迷している、というのが定説である。国際比較をすると、最下位付近が指定席であり、官庁統計で開業率と廃業率が逆転してから30年近くが経過した。しかも、筆者の推計では、2008年のリーマンショック後、他の先進国と日本の起業活動「格差」は再び拡大している。ただ、その一方で、このようなわが国でも、300万人近い人が起業活動をしている。 成長戦略の柱の一つとして、開業率倍増計画があり、それは、実数値で考えると、現在300万人近く存在する起業家を600万人にしようとするものである。起業の成功は、ある意味で確率の世界であるから、起業家の数が増えると「成功する」起業家の数も増えるというロジックはもっともである。しかしながら、その一方で現に活動している起業家の可能性を十二分に引き出すことに目を向けることも大切である。 ここでは、わが国の起業活動の現状を国際比較と国内の地域間比較の視点から捉え、その後、開業率倍増計画の大きな目的の一つである地域活性化の中で、起業活動をどのように支えていくべきかを論じたい。 リーマンショック後に起きたこと グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(以下、GEM)の2001年から2014年までの個票データ(1,284,605の個票)を使い、14年間の先進国の起業活動を一括して見たものが図1である。わが国の起業活動の水準は先進国中で最下位であることがわかる。 しかも、2008年のリーマンショックが起きるまでは、その差は少しずつ解消してきたものの、2009年以降は、起業活動「格差」が広がり始めた(図2)。英国が典型的な例であるが、多くの国々で、リーマンショックが起きた後、企業に勤めることのリスクが再認識され、自ら事業を始める人の数が増えた。 一方、わが国では、リーマンショック以降は、大企業志向がさらに強まったと考えられ、起業「活動」の前段階である起業「態度」を有する割合も相対的に低下し始めている。論 文300万人でもまだ足りない起業家武蔵大学経済学部経済学部長・教授高橋 徳行1956年生まれ。1980年慶應義塾大学経済学部卒業。1996年バブソン大学経営大学院修了(MBA)。2003年より武蔵大学経済学部教授。2015年より同大学経済学部長。主著は、『新・起業学入門』(経済産業調査会)、『起業学の基礎』(勁草書房)、『アントレプレナーシップ入門』(共著、有斐閣)などがあり、訳書としては『アントレプレナーシップ』(共訳、日経BP社)などがある。日本ベンチャー学会理事、グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)日本チームリーダーなどを兼任。高橋徳行氏 プロフィール図1 わが国の起業活動水準の相対的地位(2001〜2014年)資料:各年のGlobal Entrepreneurship Monitor(GEM:グローバル・アントレプレナーシップ・モニター)の個票データより筆者が作成注)1.先進国とは、イノベーション主導型経済圏にあり、2001年以降GEM調査に参加したことのある次の国々を指している。米国、ギリシャ、オランダ、ベルギー、フランス、スペイン、イタリア、スイス、オーストリア、イギリス、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、日本、韓国、カナダ、ポルトガル、ルクセンブルグ、アイルランド、アイスランド、フィンランド、エストニア、スロヴェニア、チェコ、スロバキア、プエルトリコ、トリニダード・トバゴ、香港、台湾、アラブ首長国連邦、イスラエルの35か国。2.起業活動の水準は、GEMで使用されているTotal Entrepreneurial Activities(TEA: 総合起業活動指数)のことであり、これは成人人口(18-65歳)のうち、何パーセントの人が、起業の具体的な準備をしているか事業開始後3年半未満であるかを表している。

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