中小企業支援研究vol3
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中小企業支援研究 別冊 Vol.319地域別の起業活動と起業態度 安倍内閣の開業倍増計画は、地域振興と密接に関わっている。今回(2016年)の都知事選にも立候補した増田寛也氏が著した『地方消滅』のような事態を避けるための方策の一つが、新しい企業の誕生を通した地域活性化である。 わが国の起業活動の水準は、先にも述べたとおり、先進国の中では最下位であり、その格差は拡大している。そして、国内に目を転じてみると、今度は地域間格差が存在している。首都圏が最も高く、北関東や甲信越・北陸・中部などで低くなっている。企業の誕生が最も求められている地域の起業活動が相対的に低迷しているという皮肉な状態である(図3)。 リーマンショック後の2009年から2014年のGEMの個票データ(11,626の個票)を使って、わが国の地域ごとの起業活動の水準を比較すると、首都圏の総合起業活動指数(以下、TEA)が4.4%である一方、最も低い北関東はその半分にも満たない2.0%である。 なお、地域の括り方が大きいのは、GEMは国際比較をするために設計された調査であり、国内の地域間のバラツキまでは制御していないからである。そのため、これ以上、地域の分類を細かくすると(例えば、中国地域と四国地域を分けたりすると)、個票データ数が分析に耐えられなくなる。 起業活動の水準が低い理由は、さまざまな視点から議論することが可能である。その中で代表的なアプローチを2つに分けると、1つは産業経済学的アプローチであり、地域の経済環境を説明変数にして分析する方法である。失業率、地域経済の成長率、そして主要交通網へのアクセスの良しあし等の違いに着目するものである。もう1つは労働経済学的アプローチであり、ここでは起業活動を担う個人に着目する。つまり、個人の学歴、所得、そして起業にかかる意識などを説明変数に用いる。 ここでは、後者の視点、すなわち労働経済学的アプローチの視点から地域間格差の要因を見てみたい。起業「活動」は、ある日突然始まるものではないという前提に立つと、「活動」を始める前に「態度」が形成されると考えることができる(図4)。GEMでは、その態度を、①身近な起業家に関心を持っているか、②事業機会に注意を払っているかどうか、③起業に必要な能力等を意識しているかの3つに分けて、それぞれ、ロールモデル指数、事業機会認識指数、そして知識・能力・経験指数で表すようにしている。 例えば、国内で最も起業活動の水準の高い首都圏と、最も低い北関東を比較すると、首都圏のロールモデル指数は18.9%、事業機会認識指数は8.5%、そして知識・能力・経験指数は16.1%であるのに対して、北関東では、それぞれ12.2%、5.8%、そして10.2%と大きく下回っている(表1)。一般に、起業活動の水準と起業態度の水準は国同士の比較でも相関関係が見られ、かつ図4のように起業プロセスを捉えると、強い因果関係があることも推測できる。図2 わが国と先進国(平均)の起業活動水準の差の推移資料:図1に同じ資料:2009〜2014年のGlobal Entrepreneurship Monitor( GEM:グローバル・アントレプレナーシップ・モニター)より筆者が作成注)1 北関東は、茨城県、栃木県、群馬県の3県であり、首都圏は、東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県である。2 起業活動の水準はGEMの総合起業活動指数(TEA)を使っている。図3 地域別にみた起業活動の水準(日本)(2009〜2014年)図4 起業プロセス資料:筆者作成

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