中小企業支援研究vol3
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中小企業支援研究 別冊 Vol.321ある。すなわち、高知県馬路村では東とう谷たに望もち史ふみ氏、徳島県上勝町では横よこ石いし知とも二じ氏、沖縄県読谷村では國くに吉よし眞しん哲てつ氏、そして宮崎県都農町では小おばた畑暁さとる氏と赤あか尾お誠せい二じ氏の2名である。 300万人もいるのであれば、各地域に先に紹介したような人たちが登場すれば、地方創生の課題は一気に解決するだろうと主張する人も少なくない。第1起業家と第2起業家 起業家と一口に言っても、当然、さまざまな人たちがいる。一流、二流、そして三流という分け方は好ましくないが、事業を大きく捉える事ができる人とそうではない人がいることは事実であり、数の上では前者が圧倒的に少ない。 「しかし、それでは全然間に合わない」という批判に答えるとすれば、事業を大きく捉えることができる数少ない地方の起業家を大切にしなさい、が筆者なりの回答になる。 通常のビジネスと異なり、地域で事業を興す場合、その利害関係は複雑であり、多くの人たちが反対のための反対をすることも珍しくない。新規事業に必要なアイデアや実行者は起業家側で用意できても、事業を始めるための経営資源は、地域の既存勢力から調達せざるを得ない。 既存勢力を敵に回して戦うことはできないのである。しかし、既存勢力は、新しいことには反対する傾向が強い。 この矛盾を誰がどのように解決するのか。 そのヒントが、第1起業家と第2起業家という概念整理である(図7)。一般に言われている起業家とは第1起業家のことである。第1起業家は、アイデアを考え、自ら行動して、新しい事業の立ち上げや継続に責任を持つ。しかし、一般に、第1起業家は、事業機会を見抜き、アイデアは豊富であるが、経営資源や地域における影響力には乏しいことが多い。そしてその活用を拒む人たちの多くが地域の既存勢力の人たちになる。 このような硬直状態を解決する人が第2起業家である。第2起業家は既存勢力に影響力を持ちながら、第1起業家をサポートする人を指している。 大分県豊後高田市で昭和の町をコンセプトに商店街活性化を図ろうとした時、当時の若手メンバーが市長に直訴した。その説明を聞いた直後に市長が発した言葉は「せっかく掴んだテーマだか、あなた方の構想で死にかけた商店街が蘇るとは思えん」であったという。しかし、誰もが諦めた時、「でも一生懸命考えたことだ。頑張ってみろ」と言われ、プロジェクトが動き始めた。 「俺が好きにさせていることだ。文句があるなら俺に言え」「あなたは安心していて良い。根回しは私がやっておく」「責任は私が取る。余計なことは考えるな」と言ってくれる人が、既存勢力の中にいるかどうかが、地域の中では決定的に重要である。 かつてのように工場を誘致して地域の雇用を100人増やすのと、新しい事業を興して地域の雇用を100人増やすのでは、プロセスが全く異なる。 前者の場合は、純粋に100人の雇用が増えるだけである。しかし、後者の場合は、純粋に100人が増えるわけではない。1,000人増えて900人減り、結果的に100人が増える。そして900人が減少する中で、さまざまな批判が寄せられる。これらから第1起業家を守るのも第2起業家の役割である。 起業プロセスは、きわめて社会的な現象である。つまり、起業家自身の能力である人的資本と、起業家を取り巻く社会的資本の2つの要因に規定される。人的資本の象徴が第1起業家とすれば、社会的資本の象徴は第2起業家である。 地域の起業活動を考える時に、成果が思うように得られない要因の一つに、社会的資本の問題があり、中でも第2起業家の不足が大きいであろう。第1起業家の数を増やすことも重要であるが、それと同時に、第2起業家を増やすことができれば、第1起業家が倍増しなくとも、相当の効果が得られるに違いない。しかも、第2起業家は、政策立案者やそれに近い人たちが成ることができるものである。図7 第1起業家と第2起業家

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