中小企業支援研究vol3
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中小企業支援研究 別冊 Vol.322はじめに…研究の背景・目的 65歳以上の人口が3,000万人を超えて2042年にピークを迎え、75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されている。このため、国は2025年を目途に、高齢者が住み慣れた地域で自分らしく生活し、人生の最期まで続けることができるよう、医療、介護の垣根を取り払った地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築をすすめている1。 地域包括システムの取り組みでは、サービス提供に関わる各事業者が上手く連携できている地域の事例が様々な場面で紹介されているが、法人の異なる各事業所間の連携のため、実際には多くの地域で、ともすれば利用者(患者)中心ではなく、各事業所の都合が優先され統一性のないサービスが提供される場合が少くなく、利用者(患者)の立場に立った一体的なサービスの提供が求められている2。地域包括ケアシステムの推進にあたっては、利用者(患者)を中心に各事業所の連携、住民との信頼関係構築が課題になっている。 東京の城東地域と埼玉県で医療・介護事業を展開する医療介護複合体「T医療福祉協議会」は、医療、介護などを営む複数の法人によって構成された協同組合を母体とし、この協同組合を運営する各法人の代表が強い結束力を持って立ち上げたものである。この「T医療福祉協議会」は、参加する法人の各業務を外部環境の変化に対応できるよう調整する機能をもっている。つまりこの「T医療福祉協議会」を軸にした、法人を超えた医療・介護分野の連携体となっている(図表1)。この連携体の関係法人及び事業所の緻密な連携により、地域住民に対し地域包括ケアシステムと同様の医療・介護サービスを、患者の立場に立って一体的に提供している。この取り組みにより「T医療福祉協議会」は、患者との信頼関係の構築による長期的持続的な関係を築き、連携体として長期に利益を生み出すという関係性マーケティング3の手法により患者・利用者の個別ニーズを捉えたサービスを提供しており、LTV(顧客生涯価値:Life Time Value)を高めている。 本研究は、この「T医療福祉協議会」の下にある、いくつかの地域協議会の一つ、東京都A地区のY地域協議会(図表1.参照、以下「協議会」という)の研究により、「T医療福祉協議会」の戦略を明らかにするとともに、地域包括ケア時代における医療、介護に携わるサービス事業者のサービス提供のあり方、連携論 文地域包括ケアシステム時代のリレーションシップ・マーケティング経営コンサルアライアンスSOAR代表折笠 勉中小企業診断士。専門 マーケティング、M&A、経営戦略・経営計画策定支援、医療介護分野など。横浜国立大学大学院修了(MBA)、ISO9001審査員補、認定登録医業経営コンサルタント、経営革新等認定支援機関。著書「そうだったんだ!中小企業経営—社長の経営戦略がまるごとわかる本」(共著、三恵社)、第14回日本医業経営コンサルタント学会最優秀賞受賞「中小病院における外来癌化学療法の経営」、第17回同学会優秀賞受賞「医療介護複合体における関係性マーケティング戦略」。mail: orikasa@consol-soar.com折笠勉氏 プロフィール1 厚生労働省ホームページより。http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/2 三菱UFJリサーチ&コンサルティング『地域包括ケアシステム構築に向けた制度及びサービスのあり方に関する研究事業報告書』2016年3月,p.6。3 朴善美「90年代における関係性マーケティングの意義」『明治大学経営学研究論集』第011号1999年,pp.313-341。(注)T医療福祉協議会は、地域の医療、介護、福祉の課題解決のため、20法人が連携する法人組織を横断した連携組織です。各法人代表による代表者会議:TOP参加、週1回開催。(出所)図表:筆者作成図表1 T医療福祉協議会組織

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