中小企業支援研究vol3
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中小企業支援研究 別冊 Vol.31環境激変期における『中小企業支援研究』の果たすべき役割千葉商科大学 経済研究所中小企業研究・支援機構長商経学部准教授鈴木 直志 企業は、昨今の技術や市場の不確実性の増大のために、その規模を問わず、イノベーションを持続的に生じさせなければ、競争で生き残れない時代となった。 2016年版中小企業白書によれば、中小企業者数の推移は、減少ペースは緩やかとなったと指摘されているが、バブル崩壊以降の全体の趨勢としての減少傾向には歯止めが掛かっていない。また、その一方で、中小企業間の格差も存在している。白書によると、労働生産性において、製造業では約1割の中小企業が大企業平均以上であり、非製造業では約3割の中小企業が大企業平均以上である。 何がこのような格差を生じさせているのであろうか。バブル崩壊以降、中小企業を取り巻く外部環境は激変している。下請制の再編・崩壊、デフレ経済の長期的な進行、新興国の急速な技術的なキャッチアップ、少子高齢化社会の急速な進展、ICTの急速な普及、グローバル化の急速な進展、製品ライフサイクルの短縮化など、中小企業がこのような外部環境の劇的な変化に如何に対応できたかどうかが、その持続性や競争力に影響を与えてきた。 さらに、資源安、新興国経済の低迷、為替相場の乱高下などにより、日本を含む世界経済の不透明感が増す一方で、技術的には第4次産業革命というべき状況も進行している。AIやロボットの進展、3Dプリンタの普及、IoTやスマホの機能の進展、自動運転車・ドローンの実用化など、ドイツではインダストリー4.0、米国ではインダストリアル・インターネット、日本でも安倍内閣の成長戦略の中で重要施策に位置付けている。 筆者の研究領域である中小製造業の技術経営の観点からすると、日々の現場における活動の中で短期的な視点の技術進化に傾注するとともに、上記の激変する環境に対応して、中小製造業が苦手な長期的な視点の技術進化との両立に重点を置くべきである。筆者が実施したアンケート調査によると、バブル崩壊以降、中小製造業は「大きな技術変化≒イノベーション」に着手して本格的に稼働するまでに約3.4年もの期間を要していた。また、ヒアリング調査においても、脱下請のための自社製品開発になると、試行錯誤の中で10年近くの年月を要することも多くみられた。ハーマン・サイモンの著書『隠れたチャンピオン企業』でも、グローバルニッチトップ企業に共通する事項として、市場側面から捉えても長期的な視点の経営の重要性を強調している。 このようなイノベーションは、創業経営者や50歳前半ぐらいまでの後継者によってなされることが多い。過去の成功体験は事業機会のリスクへの挑戦を制限することがある。このため、ダイナミックなイノベーションは、高齢経営者ではなし得ないことが多い。筆者のヒアリングにおける「大きな技術変化」も、創業経営者や経営後継者によってなされることが多かった。白書でも、経営者交代が成長投資に繋がることが指摘されている。 今後、どんなに技術が進化しても、人間にしかなし得ない、機械やコンピュータでは代替できない機能が必ず残る。そのすき間を埋めるのは、中小企業の得意な企業間の摺り合わせや、企業内の密なコミュニケーションや、経営者の迅速な意思決定である。 この中小企業の利点をフルに活用して、技術や人に投資をし続けて、試行錯誤を繰り返しながらも、新たな顧客価値を創造していくことが現在における中小企業の競争力の源泉ではないだろうか。当機構では、本号以降も、製造業と非製造業で長年蓄積した技術やノウハウを武器に競争力を発揮している事例を引き続き提示し続けるとともに、中小企業経営に関連する新たな理論や知見も紹介することにより、中小企業の経営者・支援者、行政機関などの経営や支援や政策立案の一助に資する活動に注力していきたい。

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