中小企業支援研究vol3
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中小企業支援研究 別冊 Vol.328医療費に当てはめ、その期間の生涯医療費を推計すると、患者M(協議会所属)の生涯医療費は9,294,640円であり、厚労省21分位生涯医療費8,510,000円より大きい。(4) 147名のLTVを散布図で比較しても協議会の方が大きい 同様に147名全員の受診期間をあてはめてLTVを推計し、協議会の生涯医療費をY軸、厚労省生涯医療費をX軸とする散布図を作成した。そこに協議会生涯医療費と21分位生涯医療費が同じ額となる線=45度線を引くと、協議会の分布の多くは、45度線より上に位置し、LTVは全国平均より高いと考えられる(図表12)。図表12 厚労省の生涯医療費と協議会の医療費の    散布図によるLTV比較(147名全体)(出所)図表:病院提供資料に基づき筆者作成4. 協議会の特徴(1) 地域包括ケアシステムの一つの方向性 協議会は地域包括ケアシステムの必要性が強調される以前から、患者に焦点を当てた事業所間の連携を行ってきた。今回の研究は医療のみの検証にとどまったが、今回の研究、協議会運営メンバー、病院・診療所関係者、介護事業所などからのヒヤリングの内容を併せて考察すると、患者は入院、在宅、施設利用について切れ目のないサービスを受けることができ、満足度向上につながっている。患者・利用者から見れば、施設(医療や介護)から在宅まで親身に相談にのってくれる信頼と安心のシステムである。生涯にわたりお世話になりたいという好感と親近感が形成され、地域の他の医療機関、福祉介護施設にとっても安心して連携できる存在となっている。協議会は利用者の視点で、ワンストップで利用できる24時間365日の医療介護ネットワークを形成し、退院調整会議に象徴される患者サービスを提供しており、この協議会の連携のしくみやサービス提供の内容は、地域包括ケアシステムのあるべき一つの方向性を示している。(2)医療から介護までのワンストップサービス提供による長期的関係性の構築 地域協議会は、高齢者も安心して住み続けられる町づくりの視点で患者の立場を護り自立の道筋をつける、という理念を基にしており、以下の特徴がある。①医療から介護、施設から在宅までの安心と信頼のシステム、②関係性マーケティングを支えるマネジメントシステム、患者組織(友の会)などの仕組み、③介護度の重い患者・利用者も受入れるなど、協議会内・外の医療機関、介護事業所との信頼関係と連携、などである。これらを通じた個別患者ごとのLTVは高く、地域に根ざした中小病院の方向性を示している。(3)協議会の戦略 協議会の戦略は、患者・利用者との関係性マーケティング戦略であり、これによってのLTVを高めてきた。 急性期病院は、短期間に高い診療報酬により高い収益を得る経営モデルと考えられるが、協議会の取組みは、収益は高くはないが、安心と信頼による地域シェアの獲得、患者・利用者に長期(生涯にわたり)・継続的に関わる、医療・介護の収益モデルといえる。結果として、一人ひとりの患者・利用者のLTV(顧客生涯価値)は高まり、収益(利益)を確保している(図表13)。図表13 患者との継続的な関わりによる収益モデル(出所)図表:筆者作成(注)

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