中小企業支援研究vol4
20/28

中小企業支援研究 別冊 Vol.418はじめに 近年「労働力不足」の状況が深化するにつれて、それに関する個別調査とともに、企業における対応策や政府における政策の議論が進行している。とはいえ、「労働力不足」に対する社会的関心は「労働力過剰」に対するそれに比較して必ずしも高いものではなく、「労働力不足」は経営者とりわけ中小企業経営者にとっての問題、そして、その限りでの政府の政策の問題であるという認識がなお浸透しているように思われる。本稿では、このような状況を踏まえ、改めて現在の「労働力不足」の問題と中小企業との関係を検討した。以下では、まず、現在の「労働力不足」の状況を点検し、次に、その背景と要因を戦後日本経済の過程において分析し、さらに、「労働力不足」に対する中小企業の対応や政府の政策を考察することとした。1.現在の「労働力不足」の状況と中小企業 日本銀行「全国企業短期経済観測調査」における「雇用人員」DIの2017年6月調査結果は、現在の労働力需給の状況に関して、次の諸点を明らかにしている。 まず、①「労働力不足」は全般的に拡大している。近年の全産業・全企業規模の「雇用人員」DI(実績値判断・「過剰」マイナス「不足」)は2012年にゼロ水準に低下し、その後負の領域に突入し、さらに低下を継続し、上記の調査時点において▲25に至った。また、②非製造業の「労働力不足」が顕著である。全産業を製造業・非製造業に分けてみると、全企業規模・製造業は2014年に負の領域に入ったが、同じく非製造業は先立つ2011年の12月調査の時点で負の領域に入り、現在▲30にまで低下している。さらに、③非製造業では「建設」「運輸・郵便」「情報通信」「対事業所サービス」「対個人サービス」「宿泊・飲食サービス」で「労働力不足」は目立っている。2017年6月調査時点で、「情報通信」は▲20台、「建設」「運輸・郵便」「対事業所サービス」「対個人サービス」は▲30台、「宿泊・飲食サービス」に至っては▲57にまで低下している。これらの業種のいずれも中小企業の占める割合が大きい業種であり、中小企業で「労働力不足」が深刻であることが窺われる。確かに、全産業において「大企業」(資本金10億円以上)、「中堅企業」(資本金1億円以上10億円未満)、「中小企業」(資本金2千万円以上1億円未満)に区分すると、「雇用人員」DIは、「大企業」が2013年9月調査でマイナス領域に入ったのに対し、「中堅企業」と「中小企業」は先行してそれぞれ2012年12月調査、2013年1月調査でマイナス領域に突入している。2017年6月調査では、それぞれ▲16、▲25、▲27となっている。つまり、④「中堅企業」、「中小企業」は「大企業」よりもより早い時期にマイナス領域に突入し、「労働力不足」の度合いはより深刻であるといえる。2.「労働力不足」の背景と要因 上述した現在の「労働力不足」の状況に関わる問うべき論点は多数あるが、本節では、現在の「労働力不足」の継続性について、次節では、それに対する中小企業の対応、政府の政策について検討する。前者の継続性についての大方の見解は問題の深化・拡大を踏まえて、また、背景にある少子高齢化などの人口問題の構造的性格を根拠に、長期継続性や時代性が強調される場合が少なくないことをまず留意しておこう。 さて、最初に「労働力不足」を経済理論的に考えた場合を検討してみよう。現代の資本主義経済における労働力の需給の変動の要因などについてさまざまな異なる見解があるが、共通の問題意識として一定の程度の恒常的な「労働力過剰」を主題ないしは前提として論 文「労働力不足」と中小企業神奈川大学名誉教授大林 弘道1942年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学経済学研究科博士課程単位取得満期退学。神奈川大学専任講師・助教授・教授を経て名誉教授。現在、中小企業団体研究機関顧問・研究機関研究誌編集委員等。近著「「東京一極集中」と「地方創生」」(「企業環境研究年報」No.21、2016年)、「中小企業数の傾向的減少と「国民経済力」の後退」(「名城論叢」第17巻第3号、2017年)大林弘道氏 プロフィール

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 20

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です