中小企業支援研究vol4
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中小企業支援研究 別冊 Vol.419おり、またそれを事実認識としている。つまり、失業率ゼロ%、失業者数ゼロは想定されていない。したがって、「労働力不足」のように労働力の需要がその供給を上回る状態が一定期間継続し、企業が雇用したいと考える労働力の不足に悩むという問題については、経済理論においても論点とされうる事態であると考えなければならない。「労働力不足」の出現について、学派や立場の違いを通じて共通して指摘される事情は次のような諸点である。すなわち、①景気循環の上では好況であること、あるいは、②高い経済成長率が長期に継続されていること、そして、この二つの事情のいずれか、あるいは、両方がある時には、③企業の設備稼働率の上昇、④労働時間の延長、そして、⑤企業数の増加、などによる雇用の顕著な増加があるはずということである。 これらの諸点について現在の日本経済を点検し、判定すれば、次のとおりとなろう。①実体経済の上で好況とは必ずしも言い切れない、②経済成長率自体とても高い水準と見なすことはできない。③製造工業に限定すると、設備稼働率指数(2010年=100)はほぼ100前後で推移している。④総実労働時間(産業計2015年=100)も低下傾向であり、1990年118.7、2000年106.9、2010年101.5、2016年99.5になっている。そして、⑤企業数は1989年頃以降低下傾向を持続しており、2014年の時点で3,809,228(「経済センサス基礎調査」)であり、事業所数では、1989年以降、約110万以上の減少の過程にある。以上の諸事情は、労働力の需要を規定するが、概して脆弱であり、「労働力不足」の持続性の説明としては充分ではない。 では次に、「労働力不足」の戦後日本経済における出現を、「有効求人倍率」を手掛かりに検証すると、1960年代前半(以下、「第1期労働力不足」)、1970年代前半(以下、「第2期労働力不足」)、1990年前後(以下、「第3期労働力不足」)、2006年前後(以下、「第4期労働力不足」)の四つの山(「有効求人倍率」の上昇と下落)が確認できる。そして、現在の「有効求人倍率」が直線的な上昇を継続し、五つ目の山(以下、仮に「第5期労働力不足」)を形成しつつある。 そのような経過の注目すべき特徴の一つは、過去の四つの山を形成した各期の「労働力不足」の背景には、順に「設備投資主導型」と言われた前期「高度成長」から「(昭和)40年不況」へ、「列島改造ブーム」から「石油危機」へ、「バブル」の「発生」からその「崩壊」へ、輸出主導の「緩やかな景気回復」から「リーマン・ショック(世界的金融危機)」へという過程があり、それぞれの「労働力不足」が、渦中にあっては想定できなかった急激な「不況」「危機」「崩壊」によって、急速にあるいは突如として終焉したことである。そして、同じくもう一つの特徴は、強弱はあれ、いずれの時期に際しても問題は指摘されつつも、企業経営の問題や政策の課題として調査と論議が目立ったのは、1960年代前半の「第1期労働力不足」と1990年前後の「第3期労働力不足」の二つの時期であったことである。前者では、政府の白書類による指摘のほか大阪府立商工経済研究所(編)[1966]が中小企業を中心に調査報告が行われた。後者については、中小企業事業団[1990]、経済企画庁調整局(編)[1990]、労働省職業安定局(編)[1991]などにおいて、大企業・中小企業を問わず調査や論議が行われた。さらに、第3の特徴として、それらの調査や論議においては、「労働力不足」の長期継続性、恒常性が強調されていたことである。そのことは、現在においても類似しており、「労働力不足」の「時代」の到来が強調されている。つまり、「労働力不足」は切迫感を持って論議される傾向があり、過去のそれぞれの期間のその後の経緯を見れば、事態の継続性、恒常性とが過度に考えられがちであったことが確認できよう。 さて、上述の「第1期労働力不足」においては、「労働力不足」の焦点が中小企業の「若年労働者不足」にあった。「第3期労働力不足」では、たとえば、労働省職業安定局(編)[1991]は、当時の「バブル経済」の「発生」と「崩壊」の中での「労働力不足」は「労働力人口が前年を100万人を上回る豊富な労働力供給の中での労働力不足」(同、p.7)であるとして、むしろ「将来予想される労働力供給の増加テンポの鈍化、減少による労働力不足」(同、p.7)による労働力需給の「ミスマッチ」の拡大が予想された。 今回の「労働力不足」が相対的に中小企業に集中して現れているということについては、従来のそれと共通しているが、次の諸点で異なっている。まず、①労働力の供給の頭打ちという現実があるということである。ただし、その方向の判断には、現在100万人を超える外国人労働力が雇用され、今後もその増加が見込まれていること、さらには将来の本格的な外国人労働力の導入、移民が検討される可能性があること、また、女性・高齢者の労働力化・雇用の一層の推進が図られる可能性が高いことが留意されなくてはならない。そして、②産業構造が大きく変化し、労働のサー

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