中小企業支援研究vol4
22/28

中小企業支援研究 別冊 Vol.420ビス化や高能力化が進行し、しかも、それらが労働集約的産業として推移していることである。この場合も、 AIなどの技術革新による省力化の今後の進行が考慮されるべき条件としてある。さらに、③玄田有史(編)[2017]が強調するように、従業者・雇用者の賃金が上昇していないことが指摘できる。最後に、最も特徴的な点であるが、④雇用形態における求人と求職とがマッチしておらず、充足率は低下している。つまり、「常用的フルタイム(パートタイム労働者を除く常用労働者−引用者)以外(パートタイム労働者+臨時労働者+季節労働者−引用者)の求人は常用的フルタイムの求職者の伸びを大きく超えて増加してきたが、充足率は低下している。」(厚生労働省[2015]、p.2)言い換えれば、求職者の希望は、求人が相対的に少ない正社員求人を中心とした常用的フルタイム求人に向かっているということである。 以上から、現在の「労働力不足」の継続性について、筆者は次のように推察する。現代の資本主義経済としての日本経済は、理論的・基本的認識としては「労働力過剰」の傾向が内在していると判断するべきである。そして、日本経済の戦後過程で間欠的に発生した「労働力不足」は、「不況」「危機」「崩壊」などの突発的な事態によって俄かに解消し、「労働力過剰」に転化した。したがって、現在の「労働力不足」もかなり根強い方向にあるものの、何らかの突発的事態の発生によって消失しないとは、現今の世界と日本の状況から断定することはできない。それゆえ、逆に中期的にも突発的事態が発生しないと想定すれば、現在の「労働力不足」は継続性が根強いと考えられる。したがって、国内外の突発的事態の到来を想定しない場合、継続する「労働力不足」の過程自体の内実が問題とされなければならない。そのためには、中小企業の対応や政府の政策が、合わせ考察される必要がある。3.中小企業の対応・政府の政策 まず、企業は「労働力不足」に対してどのような対処方法を実施あるいは実施しようとしているだろうか。厚生労働省[2016](2016年8月時点で30人以上の常用労働者を雇用する全国の民営事業所から抽出した5,835事業所の調査・有効回答率51.7%)における「過去、今後1年間における労働者不足の対処方法別事業所割合」によれば、①「調査産業計」の事業所の72%が「過去1年間」に何らかの対処をしており、②同じくその「過去1年間」に実施した対処方法の項目への回答(複数回答)とその割合(カッコ内)を見ると、「正社員等採用・正社員以外から正社員への登用の増加」(62%)、「臨時、パートタイムの増加」(46%)、「派遣労働者の活用」(37%)、「離転職の防止策(労務管理の改善(労働条件以外の福利厚生、労使関係など)や教育訓練の実施−引用者)の強化、又は再雇用制度(労務管理の改善(労働条件以外の福利厚生、労使関係など)や教育訓練の実施−引用者)、定年延長、継続雇用」(31%)、「在職者の労働条件の改善(賃金)」(29%)、「配置転換・出向者の受入れ」(25%)、「求人条件(賃金、労働時間・休暇、学歴、必要資格・経験等)の緩和」(23%)、「在職者の労働条件の改善(その他)(休暇の取得促進、所定労働時間の削減、育児支援や復帰支援の制度の充実など)」(21%)、「省力化投資による生産性の向上・外注化・下請化等」(12%)、「左記以外の対処」(2%)の順になっている。つまり、労働者の「正社員化」などの処遇改善に力を入れているのが分かる。ただし、賃金や休暇・育児支援などの焦点となっている課題への取組みは多くなく、また、求人条件の緩和も目立ち、一般に強調されている生産性向上の取組みは少ない。このような傾向は、調査時点から「今後の1年間」においても大きな変化がないが、「調査産業計」で何らかの「対処をする予定である」は68%であり、「対処をする予定がない」は32%であり、「過去1年間」の同じく「対処した」との回答に比べて4%低下し、「特別な対処をしていない」で同じく4%上昇している。昨年の調査時点では、「労働力不足」の深化はあるが、全般的にはそれに対する「対処」が積極化しているとはいえないようである。 しかしながら、産業別の「過去1年間」の取組みの状況について、それぞれ「対処した」と回答した割合(カッコ内)を見ると、「医療、福祉」(80%)、「宿泊業,飲食サービス業」(79%)、「卸売業,小売業」(76%)、「生活関連サービス業,娯楽業」(74%)、「製造業」(73%)など「労働力不足」が強調されている産業での「対処した」の回答割合の高さは明らかである。とはいえ、それらの産業では「製造業」を除いて機械化や省力化が本来困難な産業であり、また、「賃金」の引上げが課題になっている産業でもあることが注意される。要するに、今日の成長産業において「労働力不足」が顕著であるものの、それへの対処の重点が必ずしも抜本的でない方法に置かれているということである。 では、このような企業の取組みにあって政府の政策

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 22

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です