中小企業支援研究vol4
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中小企業支援研究 別冊 Vol.41第4次産業革命、Society5.0時代を勝ち抜くための中小企業のあり方千葉商科大学 経済研究所中小企業研究・支援機構長商経学部准教授鈴木 直志 2017 年版中小企業白書によると、中小企業の企業数は 2009 年から 2014 年にかけて 39 万者が減少し、特に小規模事業者の廃業が影響しているとされている。このような大変厳しい状況の中で、中小企業は如何に経営をして生き残っていったらよいのであろうか。 中小企業を取り巻く外部環境は、激変を続けている。本年6月に公表された国の成長戦略の中でも、今後の方向性を、IoT、ビッグデータ、人口知能(AI)、ロボットなどの第4次産業革命の先端技術をあらゆる産業や社会生活で導入することの先に、Socieyt 5.0 の 実現という耳慣れない言葉で提示している。Society5.0 とは、革新的技術を活かして一人一人のニーズに合わせたサービス提供による社会課題の解決と新たな需要の創出や生産性革命を目指す成長のフロンティアであるとしている。この方向性の中で、中堅・中小企業・小規模事業者、サービス業には、地域経済好循環システムの構築のために、国の今後の取組みとして、①地域の現場の付加価値・生産性を向上させるIT化・データ利活用等の促進、②成長資金の供給、人材・ノウハウの活用、③地域の面的活性化、圏域全体への波及が掲げられている。 筆者の研究領域である中小製造業の技術経営の観点から少し考察をしてみたい。バブル崩壊以降の下請制の再編・崩壊の中で、中小製造業は自律的な経営が必須となっている。 中小製造業は、日常の経営活動の中で現場の生産性向上などの短期的な技術進化には熱心である一方で、外部環境の厳しさや経営資源の不足から長期的な技術戦略に基づく「大きな技術変化≒イノベーション」を生じさせることはなおざりにしがちである。筆者のアンケート調査によると、バブル崩壊以降、「大きな技術変化≒イノベーション」に着手して本格稼働するまでに中小一般製造業で平均で 3.4 年、モノづくり300 社(2006 年~ 08 年経済産業省選定企業を対象)のような技術水準の高い中小製造業では平均 4.2 年もの期間を要している。 国の成長戦略や中小企業白書が指摘するように、少子高齢化の急激な進行に伴い生産年齢人口の減少が一層加速するため、中小企業の人手不足の深刻化や人件費コスト高への対応が必須である。そこで、IoT、ビッグデータ、人口知能(AI)、ロボットなどの十分な活用は、生産性向上のために急務であるとともに、新たな付加価値創出のためにも不可欠である。しかしながら、これらの生産性向上や新たな付加価値創出は、前述の長期的な技術戦略の視点のもとでなされないと、その効果は十分に発揮されない。 市場や技術や競争環境の不確実性の増大する今日において、不思議なことに、優れた企業の経営には必ず長期的視点の必要性を耳にすることが多くないであろうか。これは、国家戦略も同様である。ドイツや北欧などの国々は、限られた資源の中で選択と集中を行い、従来から長期的なスパンで自国の強みを認識し、長期的な国家戦略を策定して、国が先導して社会的なイノベーションを推進してきている。我が国の成長戦略の Society5.0 も、①モノづくりの強さ、②社会課題の先進性・大きさ、③リアルデータの取得・活用可能性を踏まえた、我が国の強みに政策資源を集中投資とあるので、長期的視点のものであると考える。 中小製造業の「大きな技術変化≒イノベーション」には、前述のとおり相当な期間を要する。一方で、革新的な技術や顧客価値の変化の速度は一段と加速し、競争環境もグローバルレベルに益々拡大してきている。この二律背反的な対応を中小製造業は、如何に行っていったらよいのであろうか。愚直な取組みではあるが、長期的な視点に基づく技術戦略を構築し、自社の中核となるコア技術を定め、新製品開発や新技術開発を頻繁に行い、出口(=市場)を探り当てることが重要である。また同時に、サプライチェーンの中で最終製品を提供することの少ない中小製造業は、産業のアーキテクチャ(モジュラー型かインテグラル型か)の特性を十分に認識することにより、自社の従来の組織能力と親和性の強い医療・環境・航空宇宙などの成長分野で高い付加価値を獲得するための良い位置取りを確保することが肝要である。

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