中小企業支援研究vol5
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中小企業支援研究 別冊 Vol.511お客様とともにメリットを享受して顧客の維持・定着化の仕組みを構築社長 印刷用紙にも当社ならではの特徴があります。この紙は、ある得意先の親密な製紙会社から直接仕入れをしています。その製紙会社の紙を使っているという理由で、得意先も当社へ優先的に発注します。また、直接、製紙会社と取引していますので、コストを抑えて、お客様へもメリットになります。村山 この仕組みが他社への絶対的な優位性を確立する顧客の維持、定着化につながっている仕組みと理解してよろしいでしょうか。仮に、お客様が他の業者へ切り替えしようとすると、紙質が変わってしまったり、価格が高くなったりしますので、切り替えができなくなるということですね。社長 はい、そのように理解していただいて構いません。また、この紙を使う理由は他社への優位性を作るためだけではありません。お客様でも名刺作成の作業の一部を内製化しているところがあり、主に障碍者の方が作業されているそうです。当社のように裁断機を使用すると危険ですので、切込みを入れた紙に印刷しています。この紙はそれに最適ということで、障碍者の方の安全な作業にも貢献しています。専務 印刷データの作成までの流れはよろしいでしょうか。それでは、実際に印刷機をご覧いただきましょう。印刷機に印刷データが転送され、後は、ボタンを押すだけで自動に印刷されます。大きな紙に印刷されたものをこちらの裁断機で名刺サイズに裁断します。社長 印刷機には空冷式のものと水冷式のものがあります。購入当時の一般の機械は空冷式でしたが、この機械は水冷式です。最近の機械は水冷式のものが多くなりました。温度を下げることによって色のばらつきが抑えられるからです。私たち(社長と専務)は、米国ニューヨーク州ロチェスターのコダック社の研究所でそのことを教えてもらいました。技術的な優位性は自社で印刷機をカスタマイズできる技術を持っているかどうか村山 どのような経緯で米国のコダック社に行かれたのですか。技術的な事項の確認でわざわざ渡米されたのでしょうか。社長 当社は、ネクスプレスというコダック社製の高価なデジタル印刷機械を日本で4~5番目に導入しました。当時、小さな会社がこのような機械を導入するのかという話もあったくらいで、従業員もその機械をうまく使いこなすことができませんでした。専務はまだ学生でしたが、シアトルの大学に留学していましたので、私がコダック社の本社へ行く際にシアトルに立ち寄り、専務を連れて一緒に訪問しました。コダック社の研修に何度か参加し、内蔵装置の細部に亘り説明を受けました。私たちは、日本人で唯一英語の研修を受けた者になります。その研修で得た知識を利用して、独自に機械を調整し、元々の機械にはない色の帯域幅を広げました。村山 製本の島村さんからお聞きした話ですが、機械を自分でカスタマイズできるレベルの高度な技術を持った職人がいるかどうかが、会社の優位性になるそうです。しかし、今はそのような高度な技術を持った職人はなかなかいなくなってしまったとのことです。社長 島村さんのお話ですね。私も同じようなお話を他の方からもお聞きしました。当社のように1枚の用紙に24の面付けを行い裁断しているところはなかなかありません。しかも、当社の技術的な強みは何と言っても色が安定していることです。大きな会社では、何名もの担当者がお客様の前に名刺を一斉に並べる場合があります。そのときにそれぞれの名刺に印刷された色がバラバラに違っていたら困った話になってしまいます。皆さん見学にいらっしゃった際、当社の印刷機をご覧になって「普通のリコー社製の機械ですね」とおっしゃいますが、実は、当社は外からは見えない機械の内部を独自に調整しており、販売されている機械に比べ性能を高めています。以上が当社の名刺印刷の流れの概要ですが、よろしいでしょうか。栗原 本日はありがとうございました。中小企業が成功するための発想方法や事業への取組み姿勢、また、仕事を成功させるための人とのかかわり方、これからの印刷業の目指すべき姿と優位性確立のためには目には見えない高度な印刷技術が重要であるなど、大変興味深い貴重なお話をお聞きすることができまして勉強になりました。それでは、最後に皆さんの写真をお取りしてもよろしいでしょうか。■企業概要企業名………株式会社羽生本社所在地…東京都中央区銀座1丁目(木場オフィス:東京都江東区東陽5丁目)資本金………30百万円従業員数……5名創立…………昭和59年7月事業内容……印刷サービス・ソリューションWebサービス・ソリューション出版サービス・ソリューション年商…………90百万円主な取引先…グローバルな情報会社メガ銀行グローバルな建機会社グローバルな通信部品会社 他姉妹会社……有限会社羽生印刷■インタビュア:村山賢誌…千葉商科大学経済研究所客員研究員■インタビュア及び原稿執筆:栗原拓…千葉商科大学経済研究所客員研究員中小企業診断士社屋

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