中小企業支援研究vol5
22/32

中小企業支援研究 別冊 Vol.520 1990年代以降、中小製造業は戦後最悪の経営困難に見舞われているが、革新意欲は消えておらず、中小企業のこの活力を活かし、地域から産業再興を目指すことが、日本経済の健全な発展の道であることを述べたい。なお、中小製造業については機械工業を中心に論ずる。1. 中小企業経営の困難化 中小機械工業の多くがその下に編成されている下請分業は、「対等ならざる外注関係」(北原[1955])という問題性を孕みつつも、日本特有の系列的下請関係は国際競争力の源泉の一つとされてきた。その下請中小企業が1990年代以降、小零細企業を中心に戦後最大の経営難に陥った。 その第1の要因は中小企業市場の大規模な縮小である。1990年を100とする2014年の機械工業の規模別出荷額は、従業者規模100人以上の2規模層はほぼ横ばいだが、零細事業所(4~9人)の出荷額は47.0と半分以下に落ち込み、小事業所(10~19人)は69.3、20~99人も86.0へ落ち込んでいる(数値は経済産業省「工業統計表」各年版より)。 市場縮小はどうして起きたのか。1990年代以降、機械工業大企業による中国など、東アジアでの生産拠点構築と部品調達の拡大(以下「生産の東アジア化」)が、国内下請中小企業への発注を減らしたためである。 図表1によると、生産の東アジア化を背景に多くの中小機械工業が、取引先の「海外生産の拡大」「海外からの部品調達の拡大」に直面し、両者とも受注面で悪影響を受けた企業が好影響を受けた企業を上回り、上回り方も経年増加している。 海外生産の拡大は国内生産を縮小し、国内への部品発注を減らすが、日本国内から現地調達困難な部品の輸出を増やす効果もある。だが、現地サプライヤーの技術水準上昇・現地調達拡大と共に輸出誘発効果は低下するため、受注への悪影響が経年強まったのである。海外部品調達拡大も現地サプライヤーの技術水準上昇が背景にあるが、円高が直接のきっかけになっており、円高のたびに調達部品の範囲が広がり、近年ではリーマンショック後の円高がそれを加速した。 生産の東アジア化は国内下請中小企業への発注量を時事評論モノづくり中小企業に期待する嘉悦大学ビジネス創造学部教授 日本中小企業学会理事・元副会長黒瀬 直宏1944年生まれ。嘉悦大学ビジネス創造学部教授。博士(経済学)。主な業績:『独立中小企業を目指そう』(同友館、2015年)、『複眼的中小企業論~中小企業は発展性と問題性の統一物~』(同友館、2012年、2018年9月改訂版予定)、『中小企業政策』(日本経済評論社、2006年)、『中小企業政策の総括と提言』(同友館、1997年)黒瀬 直宏氏 プロフィール図表1 中小機械・金属工業主要取引先の経営戦略の変化(過去5年間)と影響  単位:%経営戦略主力取引先の経営戦略の変化があった企業受注面で悪影響があった受注面で好影響があった好影響-悪影響94000612940006129400061294000612海外生産の拡大41.245.652.867.525.741.339.257.53.88.88.014.8-21.9-32.5-31.2-42.7海外からの部品調達の拡大32.136.438.843.318.734.531.743.52.44.03.35.7-16.3-30.5-28.4-37.8外注先の絞り込み34.247.743.943.07.717.716.316.220.135.428.538.412.417.712.222.2内製化の推進25.726.520.626.319.924.820.827.02.32.42.13.9-17.6-22.4-18.7-23.1部品の共通化、部品点数の削減―28.930.930.65.813.010.418.012.116.912.715.46.33.92.3-2.6注1)回答企業は商工中金の取引先中小企業。機械を中心とする機械・金属関係業種に属する。多くは下請企業。 2)「受注面での悪(好)影響」に関する割合の分母は全調査企業数。出所)商工中金調査部・商工総合研究所[2007]:図表Ⅰ-2-11、Ⅰ-2-12、商工中金調査部・商工総合研究所[2013]:図表5を基に作成

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 22

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です