中小企業支援研究vol5
24/32

中小企業支援研究 別冊 Vol.522産上の根拠はあった。それに対し、「アジア価格」との比較による下請単価削減要求は、生産上の根拠に配慮するものではない。図表3によると2001年、2016年それぞれ「算定根拠の乏しい引下げ要求」は47.5%、30.3%、「海外輸入品との価格差を理由に引下げ要求」は32.3%、27.6%、また、「協力金、協賛金など別の名目での値引き要求」は10.3%、6.8%の企業が経験し、2016年だけだが「説明はなかった」とする企業も4.8%ある。以上はすべて生産上の根拠のない下請単価削減要求であり、複数回答のため単純に加算はできないが、各年において半分以上の企業が生産上の根拠のない下請単価削減要求を経験していると見てよいだろう。 日本の下請制は国際競争力の源の一つと言われ、大企業も中小部品企業をリスペクトするため、「下請」という呼び方を封印したこともあるが、今や、下請制は大企業にとって、中小企業を東アジア企業と競わせ、価格差益獲得の場として利用する側面を持つようになった。 以上の要因による経営難のため、中小製造業の数は大きく減少、特に1~9人は86年を100として14年は52.0へ、10~19人は同59.1へ劇的に減った(数値は総務省「事業所・企業統計調査」「経済センサンス―基礎調査」より)。90年代以降、中小製造業は小零細企業を中心に発展から衰退に転じた。2. 中小企業の革新意欲は健在 しかし、中小企業は一方的に衰退に追いやられているわけではない。下請企業でも独立部品メーカーと完成品メーカーを目指している中小企業の割合は、2000年には合わせて44.4%、06年、12年は減少したものの、両年とも合わせて37%台ある(商工総合研究所[2001]、商工中金調査部・商工総合研究所[2007]、商工中金調査部・商工総合研究所[2013]による)。下請企業の4割近くが独立部品メーカー・完成品メーカーを目指している事実は、注目されてよい。その道は困難だとしても中小企業の革新意欲は健在であり、現に市場面での自立化に成功している中小企業も少なくない。 そのような中小企業の最も大きな特徴は、マーケティングが経営の柱に発展していることである。大企業起点の垂直的分業組織に組み込まれてきた日本の中小製造業は、技術的には発展したが、マーケティングを発展させる機会を持たなかった。優れた開発力を持つ中小企業でも、何を開発するかは大企業から指示を受ける場合が多く、市場面では大企業から自立していなかった。しかし、90年代以降の市場縮小に直面し、それまでの成長が単なる自然的な成長であったことに気づき、マーケティングの必要性に目覚めた。そのマーケティングは多くの場合、ワン・トゥ・ワン・マーケティングと呼ぶべき特徴を持っている。マーケティング論で使われる言葉だが、ここでは、個々の顧客との情報の受発信により顧客需要の創出を図るマーケティングとする。一例をあげる。 札幌の印刷業、アイワードの経営者は社員にこう言っている。「個々のお客さんに密着しなさい。そうすると今こういうことで困っているとか、次、こういうことを考えているという“つぶやき”を聞き取ることができるはずだ。聞き取ったことを1人で処理せず、社内に帰って皆に相談し、その結果をお客さんに伝えなさい。これが終われば、営業活動の大半は済んだと思ってよい」(1999年取材)。 2001年2016年算定根拠の乏しい引下げ要求47.530.3海外輸入製品との価格差を理由に引下げ要求32.327.6協力金、協賛金など別の名目での値引き要求10.36.8説明はなかった-4.8VA.VE活動の結果、引下げ要求32.337.8製品数量増加に伴う引下げ要求25.228.6その他8.212.6注)回答企業の属性a.JAM(ものづくり産業労働組合)所属労働組合の企業b.業種:鉄鋼、非鉄、金属製品、一般機械、電機、輸送用機械、精密機械、その他c.規模:2001年―従業員299人以下が66.9%、2016年―同59.6% 出所)JAM[2001][2016]より作成図表3 納入先による価格引下げ要求根拠(複数回答) 単位:%

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 24

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です