中小企業支援研究vol5
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中小企業支援研究 別冊 Vol.523 この経営者は、<顧客密着→潜在ニーズの発見→提案→ニーズの顕在化>としてマーケティングを体系化している。ワン・トゥ・ワン・マーケティングに基づく経営は、個々の顧客ニーズに立脚した唯一性の強い高付加価値の製品や加工を提供し、差別化による発展をもたらす。 従来、日本の中小製造業には「よいものを作れば黙っていても注文は来る」という姿勢が強かった。そのような時代は70年代半ばからの減速経済期に終わりが始まり、長期停滞期に完全に終わった。ワン・トゥ・ワン・マーケティングの中小企業への浸透は、市場自立化を目指す、中小企業の伝統的な弱点を克服する新たな動きである。 その他にも、中小企業同士の戦略的ネットワークによる市場拡大、市場拡大に必要な需要・技術情報を効果的・効率的に獲得するための情報共有的組織運営の推進、まだ多いとは言えないが、親企業への追随ではない主体的な海外市場進出、といった動きも指摘したい。90年代以降、中小企業は衰退に転じたが、それに対抗するように、革新を進めている中小企業も少なくない。3. モノづくり中小企業の役割を見直す 日本の中小製造業、特に中小機械工業は、大企業の国際競争力を支える下請企業として存在感を発揮してきたが、生産の東アジア化により部品供給システムから排除される企業が多発した。だが、大企業の下請であることが、国民経済における中小企業の唯一の存在価値ではない。次の2点に着目すべきである。 第1に、中小企業は産業の高加工度化の担い手ということである。上記の、市場自立化に向けてワン・トゥ・ワン・マーケティングを活発化させている中小企業もその一部だが、計量的にも確かめられる。 図表4が示すように、中小製造業の実質付加価値生産性(図表では実質労働生産性)の上昇率は、80年代以降、多くの期間で大企業製造業を上回り続けている。「中小企業=不効率企業」というイメージは偏見である。実質付加価値生産性は実質付加価値率、実質資本装備率、実質資本回転率の積で、その上昇率はこの3構成要素の上昇率の和になる。本図表は中小企業の実質付加価値生産性の上昇率が大企業より高いのは、中小企業の実質付加価値率の上昇率が大企業を上回っているためであることも示している。また、中小企業の実質資本回転率の上昇率は大企業より低いが、それは市場縮小のためである。つまり、中小企業は全体として市場が縮小する中、付加価値率の高い市場の開拓により生き残り、産業の高加工度化も進めてきたのである。日本産業の高加工度化の勢いは衰えたが、先進国は高加工度化を追求し続けるしかない。中小企業の実質付加価値率の上昇率が大企業を凌駕しているという事実は、中小企業こそが高加工度化(高付加価値化)の担い手ということを意味する  それにもかかわらず、多くの中小企業が苦境に陥っているのは、下請単価切り下げのように不利な価格関係を強制され、名目付出所)『中小企業白書2014年版』:第1-1-53図図表4

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