中小企業支援研究vol5
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中小企業支援研究 別冊 Vol.51大廃業時代の中小企業の事業承継支援について千葉商科大学 経済研究所中小企業・支援機構長商経学部准教授鈴木 直志 わが国では、中小企業数の大幅な減少、休廃業・解散件数の高止まりの状況の中、中小企業経営者の高齢化が進展し、2020年頃には、団塊世代経営者の大量引退期の到来が見込まれ、後継者確保難に伴う中小企業の大廃業時代到来による社会への影響が懸念されている。 中小企業の事業承継支援施策は、今までに平成18年度の「事業承継ガイドライン」作成等から始まり、その後、親族内承継支援、従業員や第三者による親族外承継支援、後継者が不在等の場合のM&Aを活用した事業引継ぎ支援の施策が年々拡充されてきていた。しかしながら、中小企業経営者の高齢化の加速とそれに付随する膨大な数の後継者確保難の深刻化の進展にとても対応しきれない状況にあった。 こうした中で、国は平成29年7月に事業承継5ヶ年計画を策定し、平成29年度から平成33年度までに、中小企業の事業承継に関する集中支援を行うこととした。従来の事業承継支援施策との大きな相違点は中心となる支援主体にある。それまでの国の事業承継支援施策の、中小企業基盤整備機構に置かれた全国事務局を中心とした全国的な集中支援型から、都道府県単位の地域支援機関のネットワーク・プラットフォームを中心とした地域分散支援型に平成29年度から変更がなされた。何故ならば、5年間で25万〜30万社を対象にプッシュ型の事業承継診断を行い、後継者不在等の場合のM&Aによる事業引継ぎ支援を年間2,000件行うことなどにより、現在の大廃業時代の到来の懸念という深刻な状況に対処するためには、地域支援機関の総力を結集することが不可欠であったからである。 それでは、何故、事業承継支援の更なる強化により中小企業の新陳代謝を加速させる必要があるのであろうか。『2016年版中小企業白書』では、①20年間で経営者年齢の山は47歳から66歳へ移動していること、②経営者年齢が上がるほど、投資意欲の低下やリスク回避傾向が高まること、③実際に、経営者が交代した企業の方がわずかながら利益率を向上させていることを指摘している。『2017年版中小企業白書』では、①後継者の選定には時間がかかるが、未決定企業は総じて経営の引継ぎに関する対策が進んでいないこと、②親族外承継の場合には課題への対応が遅れており、対策に時間を要する資産の引継ぎ方法への対策・準備が課題となること、③後継者がいないが事業を継続したい企業にとっては、M&Aは重要な選択肢であり、一般に、従業員の雇用維持のほか、会社の発展を重視する経営者が多いことを指摘している。さらに、『2018年版中小企業白書』では、①事業承継等を背景に、中小企業のM&A件数は増加基調であり、買い手側の企業にとっても、シナジーを発揮し、生産性を高める契機になりうること、②M&Aの相手先を見つけたきっかけとしては、金融機関等の第三者からの紹介が多く、マッチング強化が今後の課題であることを指摘している。 本機構においても、中小企業の事業承継支援に資することを目的に活動を行っている。一つが、本誌『中小企業支援研究』における経営者インタビューにおける老舗又は先進的中小企業の技術や経営のノウハウをアーカイブとして蓄積し幅広く普及することである。二つ目が、本誌において、中小企業の事業承継支援に関する調査報告や支援事例報告の記事を掲載し普及することである。最後に、本経済研究所主催の「公開シンポジウム」において、中小企業の事業承継をテーマに、中小企業の経営者・支援者の皆様方を対象として、円滑な事業承継やその支援のあり方を考察・普及することである。具体的には、3年前に親族内承継を中心にシンポジウムを行い多数の皆様方にご好評をいただいた。また、本年12月1日に「大廃業時代の中小企業支援のあり方~事業の承継・引継ぎ・譲り渡し支援~(仮題)」をテーマにシンポジウムを開催する。多くの中小企業の経営者・支援者の皆様方にご参加いただき、少しでも有益な示唆を受けていただければ幸いである。

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