中小企業支援研究vol5
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中小企業支援研究 別冊 Vol.528編 集 後 記 全国的に観測史上3番目といわれる猛暑日が続くなかで、多くの関係者の皆様のご協力をいただき、本誌『中小企業支援研究』別冊Vol.5を発刊することができました。心より感謝申し上げます。 本号では、「巻頭言」で本学経済研究所中小企業・支援機構長の鈴木直志先生から、中小企業の大廃業時代の到来による社会への影響の懸念と、国の事業引き継ぎ支援の経緯を示していただきました。事業承継の失敗こそが大廃業時代の要因の一つであるという視点から、平成18年度「事業承継ガイドライン」作成等から始まったこれまでの事業承継支援の流れを踏まえ、平成29年度から強化された地域分散支援型の集中支援の現状についてご紹介いただきました。 「時事評論」では、嘉悦大学教授黒瀬直宏先生より、このような大廃業時代の具体的な状況について、1990年代以降戦後最悪と言われる経営困難に見舞われている中小製造業について、地域からの産業復興こそが日本経済の健全な発展の道であることを示唆していただきました。中小企業のなかでもとりわけ小零細企業の経営難は、「生産の東アジア化」に伴う中小企業全体の市場の縮小と、その中での親企業の集中発注、雇用過剰などの要因による「生産の内製化」といった下請政策が市場をより縮小したこと、これに加えて下請単価の厳しい切り下げなど、下請制の変質が原因にあるとのご指摘をいただきました。しかしながら、このような状況下であっても革新意欲を持った中小製造業が存在していること、そこには、従来の「良いものを作れば黙っていても注文は来る」という発想から、経営の柱をマーケティング、ことさらワン・トゥ・ワン・マーケティングの考え方への転換があることが指摘されました。そして、中小企業は巨大企業へ経済力が集中する社会でなく、経済力が多数の主体に分散する経済民主主義の担い手であり、市場経済のなかで、あらゆるものが商品化し、貨幣的動機が人間行動を支配する傾向のある時代にあって、中小企業が取引や労働を人間化する機能を持っていること、それゆえ中小企業が、その固有の社会的役割である経済民主主義、市場経済の「人間化」を進め、社会的にも豊かさを追求することこそが日本経済・社会の真の再生への方途であるという含蓄のあるご指摘をいただきました。 このような視点は、今回の経営者インタビューで紹介された山一興産㈱社長の柳内光子様の「会社は大きくするより小さくすることのほうが難しい。小さくて儲かる仕組みが重要である」というご指摘をはじめ、比較的小規模でも高収益率を達成している㈲梅花亭社長の井上豪様も同様の視点を実践している経営であることが紹介されました。また、独自のビジネスモデルの構築に後継者とともにチャレンジし続けている㈱羽生社長の羽生直様、専務取締役の智一様、昭和プラスチック㈱社長の皆川悦子様からも事業承継の大きなヒントをいただきました。今回は、女性経営者お二人のお話をいただいたことも特徴となりました。 本誌が皆様の事業承継、事業活動あるいは研究のお役に立てれば幸いです。『中小企業支援研究』編集委員長前田 進

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