中小企業支援研究vol6
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中小企業支援研究 別冊 Vol.611強いつながり力で食材を確保前田 ただ安くて量が多いだけでは定着しなかったのではないでしょうか。野口 あっさりとしているけど飽きない味、を求め続けています。豚骨でガツンとした迫力を出したり、脂を入れたりは考えていません。私も大人になってみて初めて当店のこの味の良さがわかりました。前田 子供から大人まで、家族全員で食事を楽しめる味ということですね。野口 できればお子さんが小さいうちから家族でお越しいただき、当店の中華そばややきそばで野菜嫌いにならないように育っていただきたいといつも思っています。当店ではタマネギはどうしても入手できない一部の時期を除き、年間7~8割は地元の八百屋さんを通じて淡路島産のタマネギを取り寄せてもらい使用しています。甘みがあって食感もよいのですが、恐らくは足がはやいため、総合食品スーパー等では取り扱えないのではないかと思います。一般的な、固くて甘みがなくて日持ちのよいタマネギは牛丼とかにはよく合うのでしょうが、当店では食感に影響が出てしまうため避けるようにしています。このタマネギが当店に安定して供給されるのは、近くにあるすき焼きで知名度の高い和田金さんが同じタマネギを大量に仕入れているお陰です。そのため松阪の八百屋さんと淡路島のタマネギ生産農家さんとの間に直送ルートがあり、そのルートに乗せて頂いています。当店の使用量だけではこのルートを維持できたとは思えず、このタマネギを使い続けることができるのは和田金さんと、このルートを守り続けている八百屋さんのおかげだと思っています。前田 いただいてみると、御社の中華そばのスープは他店とは香りが全然違いますね。野口 当店のスープは、創業以来のうどんの汁が基本です。煮干し、かつおぶし、さばぶし、そしてままかりと呼ばれるキンカ煮干しを香りづけのために加えています。これらの原材料は、昔からお付き合いしている乾物屋さんにお願いして仕入れていただいています。仕入単価については、個別の価格交渉をせずにずっと付き合い続けることを心掛けています。何よりも、いい物を吟味して安定的に届けてもらう、その信頼関係が当店の味を守る秘訣だからです。安くて全く同じ原料の売り込みに気持ちが揺らぐことはありますが、結局長続きしません。仕入業者さんとの関係は値段で決めてはならないことは経験から深く心に刻んでいます。最近、残念なことに仕入業者さんの廃業を経験するようになりました。しかし、お陰様で廃業される業者さんから、今までと同じ条件で同じものを仕入れることのできる同業者さんをご紹介いただくことができています。そのような引継ぎを、廃業前の忙しいときにしていただけることには本当に感謝しかありません。今後もこのような繋がりを守っていたいと感じています。守り続けてきた伝統の味石田 お父様の時代には、どのような出来事がありましたか。野口 父は、祖父が作った味を何も変えずに守り続けました。私は、父が守り続けた商法に支えられていると感じています。前田 お父様は作り方や設備、機材など、ほとんど変えなかったのですか。野口 父は、リング状に成形してから揚げるやきそばの製法を開発しました。しかし後日発見された祖父が記録した各メニューに対する製法ノートの記載内容と、父の調理手順は完全に一致しており、その時はとても驚きました。父は味を一切変えることなく、お客様と店を守り続けてくれました。前田 昔は当店の前を通ると良い香りがしていたというお話も聞きました。石田 市場環境の変化についてはいかがでしたか。野口 父の代には、近隣の同業他社と顔合わせの機会が頻繁にありました。約30年ほど前からはそのような機会が減っていきました。松阪でもチェーン店や飲食業組合に所属しない個人店が次々と開業しました。脱サラ起業によるラーメン店開業ブームの時期だったのですが、当店はこの時期に開店した近隣のお店とのつながりや競争意識はありません。当店はどこに行こうかな、ではなく、「不二屋に行こう」とわざわざ来ていただくお店でありたいと思っています。個人的には好奇心があって、研究目的ではなく大抵のお店に一度は食べに行きます。そのようなお店に行く度に、チェーン店のしっかりとしたマニュアルに基づく調理と接客の安定感の長所をしっかりと学び、それを取り入れたいなと思います。今はお客様の方が私たちより他店舗のこと不二屋の看板メニュー「中華そば」と「やきそば」甘みと食感のよい淡路島産のタマネギ考案した金型を使って麺を揚げる2代目経営者

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