中小企業支援研究vol6
14/30

中小企業支援研究 別冊 Vol.612をよく知っている時代です。「うちはこれでいいんだ」というような意識は決して持ってはならないと肝に銘じています。お客様に鍛え上げていただいた前田 お客様について聞かせてください。野口 料理は全く同じであるにもかかわらず、内装を変更したり器を変えただけでお客様から「味が変わった、量が少なくなった」と言われてしまうことがあります。店を改装したときには、「釜が新しくなったから味が変わった」と言われてしまいましたが、実は釜は同じものを使い続けていました。松阪は昔から商業が盛んで、地元の方は、微妙な味の違いを強く意識される方が多いと感じます。納得がいかないと続けてお越しいただけない厳しい地元の方々に受け入れていただいたからこそ、長く続けることができたのだと考えております。石田 松阪のお客様の特徴はありますか。野口 値段・味・量の3つ全てに厳しい人が多いと思います。お年寄りの方もかなりの量を召し上がります。また、上品ぶったものは受け入れていただけません。松阪で成功すれば津・伊勢は難しくないと思っているほどです。新しい業態のお店は名古屋の方から次第に南下して出店してくることが多いのですが、松阪を飛ばして津からいきなり伊勢に出店して、後から間を埋めるように松阪に出店してくることが多いといわれています。松阪といえば松阪牛が最も有名なのですが、最近焼肉のチェーン店が松阪に出店して話題になりました。松阪の方々の食生活もだんだんと変わってきました。かつては松阪では、寿司ならどこのお店、蕎麦はあのお店、と地域全体で広く受け入れられてきた特定のお店がありましたが、今では若い方を中心にチェーン店に気軽に向かうような流れもできているようです。危機感を持っています。松阪の方々は、新しいお店に対し積極的な反応を示す方が多いようです。ただその後の定着が難しくて、出店して3か月も経つと、途端にお客様が途絶えてしまうことがあると聞いています。お客様視点の味の開発前田 お祖父様はどのような方でしたか。野口 祖父は新しいものを取り入れることにとても積極的でした。祖父は地元にない変わったものを自分の店で提供したい、という意欲がとても強く、当店独自のメニューであるやきそばについては、最初は中華麺をサラダ油、ラード等色々な油で揚げてみて試行錯誤を繰り返したと聞いています。今はフライヤーで、ラードのみでリング状に揚げる製法が定着しました。そういえば中華麺だけでなく揚げ麺用に別に製麺するようになったのは父の代からです。毎朝、製麺機でやきそば用の麺を製麺して、その日のうちに売り切ることを守っています。祖父は電子レンジに興味を持ち、その頃ほとんどなかった電子レンジを使用して調理する店ができたと聞いて、わざわざ尋ねに行ったりしたと聞いています。もし今祖父が現役だったら、きっと一所懸命インターネット通信販売に取り組んでいたのではないかと想像しています。また祖父は、とても地元松阪の方を大切にしていました。頻繁に地元の方々を招き、新メニューの試食にご協力いただいたと聞いています。試食の際にはご参加いただいた方に「どうおいしい、どこが苦手」と詳しくお聞きしていました。今振り返ってみると、当時祖父は何よりも「地元の方のお口に合うかどうか」を最も強く意識していたように思います。それが今に伝わっていることが、当店の継続の一番大きな秘訣であると考えております。変革と家族・従業員の協力前田 ご自身のお話もお聞かせください。野口 私は、父の指示で約4年半、名古屋の別のお店で修行をしました。その後帰郷し、店が私なしでも何の支障もなく営業できている中で入社しました。当時私は「何もしなければ何も変わらない。自分が今の店の流れに入るのではなくこの店の中に新たに自分の居場所を作るんだ」という思いで取り組みました。当時はレジが欲しい、次にはお待ちいただくお客様のための待合席を設けたい、そして初めてお越しいただくお客様にも優しいお店になってゆきたい、との思いを強く抱いておりました。結果、父が50代半ば、私が30歳の時に店舗新築を果たしました。今思えば30歳の息子の提案に50代半ばの父がよく乗ってくれたものだと感謝しています。父は子供である私の提案に耳を傾け、理解してくれる人でした。石田 店舗新築後に変化はありましたか。野口 私は新しい店ができて、初めてこの店を守ることについて自分の責任を自覚しました。あの時の一気に責任が降りかかってきたような感覚を強く覚えています。また店舗新築を機に、お持ち帰りの販売方法を変更しました。この変更を機に、店内の売上と持ち帰りの売上がほぼ拮抗するようになりました。以前は、お客様にご家庭の鍋をお持ちいただき、当店でそこにスープを注ぎ、野菜は袋に入れてお渡しする方法を採っておりましたが、店舗新築のために営業を休止した半年間に持ち帰り用メニューの開発を行い、店内でお召し上がりいただく場合と同様の品質を確保できるような販売手法を考案しました。松阪の方は店内とお持ち帰りとで同じ味を同じように再現できないと受け入れていただけません。このタイミングで持ち帰り商品の開発に取り組んで本当に良かったと思います。石田 一日の仕事の流れを教えてください。野口 私は朝6時半から製麺に取り掛かります。大体8時半~9時くらいに従業員が揃い、その後やきそば用の揚げ麺に取りかかります。11時のオープンと同時にご提供できるよう、多いときで予め40~50食は開店前に仕込んでおきます。お昼の営業中は店内でのお召し上がりと並行してやきそばのお持ち帰りに対応します。お昼の営業終了後には一旦営業を休止しますが、その間もお持ち帰りのご要望に

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 14

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です