中小企業支援研究vol6
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中小企業支援研究 別冊 Vol.6181. はじめに第二次世界大戦後長きにわたり日本経済の中心的経済主体として存立してきた中小企業は、それぞれの時代において経済環境や社会情勢等、さまざまな変化に翻弄されてきた。第二次世界大戦の終結から75年が経過し、企業経営のみならず、競争力の源泉であった、いわゆる「日本的」とされた事象が、近年その優位性を発揮できず、否応なく変革の波に晒されている。現代日本経済は、一部に景況に対し楽観的な雰囲気があるものの、MMT(Modern Monetary Theory:現代金融理論)、すなわち独自の通貨を持つ国の政府は、通貨を限度なく発行できるため、デフォルト(債務不履行)に陥ることはなく、政府債務残高がどれだけ増加しても問題はないという理論、に基づいて遂行されたアベノミクスの限界が指摘されている。「平成」の中期以降からの人口減少による量的な変化は、単に人口が減るということだけではなく、質的な変化ももたらしている。これは経済問題のみならず、教育・医療等をはじめとして多様な分野に大きな影響を及ぼす。特に人口減少による人手不足が深刻な問題となっている。経営的に問題はなくとも廃業を余儀なくされる例も少なくない。同様に近年、中小企業における最大の課題の1つは、事業承継者不足である。事業承継者難によって中小企業の廃業が進めば、経営的に存立している企業が急減していくことで、従来から市場や顧客に提供していた製品やサービスが喪失するだけでなく、技術やサービス提供の価値、そして何よりも雇用が失われる。有効需要となる消費や投資にも多大なる影響を与えることは、当該企業が存立する地域にとっての損失は小さくなく、将来にわたって及ぼす影響は計りしれない。日本経済において中小企業や小規模事業者が地域経済・社会に果たす役割は大きい。中小企業や小規模事業者は経営活動を通じて経済のみならず技術や技能・文化の継承においても重要な存在であり、地域経済活力の源泉として地域の雇用と財政をも支える役割を果たしている。すなわち地域の中小企業や小規模事業者には「永続的にその地域に存立していく経営実現(going concern)」が求められている。これを実現するうえで、重要な課題の1つが事業承継問題である。ファミリービジネスの色合いが強い中小企業や小規模事業者は、これまで血族親族からの事業承継が主流であった。ところが、血族親族のみからの事業承継者の確保が困難となり、廃業につながる事例が全国で多く見られる。経営者自身の高齢化に加えて事業承継者の発掘・育成が進まず、その結果、事業承継者の不足・不在が顕在化している。以下では事業承継問題についてその現状を踏まえ、日本的経営の視点から分析検討していく。2.事業承継における現状と課題中小企業の事業承継について検討するにあたり、まずは『2019年版中小企業白書1』により事業承継の現状と課題等について検証していく。近年、少子高齢化による人口減少局面であることにより、生産年齢人口が減少し人手不足となっている。日本の人口は2008(平成20)年の約1億2800万人をピークに、2011(平成23)年以降は減少局面が続いており、将来的にも増加に転じる見込みがない情勢である。内訳について見ると、65歳未満の生産年齢人口が減少傾向にある一方、75歳以上の高齢者人口の割合が増加し続けていくことが分かる。就業率については、1992(平成4)年以降、しばらくの間は減少傾向が継時事評論中小企業及び小規模事業者の事業承継における課題と対応―承継者難への対応と持続可能な地域づくり―関西学院大学大学院経営戦略研究科 教授佐竹 隆幸博士(経営学) 次期日本中小企業学会会長、兵庫県参与、兵庫県立大学名誉教授。1960年生まれ。2016年4月関西学院大学大学院経営戦略研究科教授、2019年4月同研究科長就任、現在に至る。専攻は、中小企業、産業構造、企業倫理、地域振興。主著に、編著書『現代中小企業の海外事業展開』ミネルヴァ書房(2014年4月)、編著書『現代中小企業のソーシャル・イノベーション』同友館(2017年4月)、著書『中小企業存立論』ミネルヴァ書房(2008年4月)などがある。佐竹 隆幸氏 プロフィール1 中小企業庁編(2019) pp.45-71による。

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