中小企業支援研究vol6
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中小企業支援研究 別冊 Vol.620「取引先との関係維持」「後継者に経営状況を詳細に伝えること」等、承継前に後継者に対する教育・研修が必要であることも高い割合となっている。事業承継の形態別の、事業用資産の引継状況については、全体の約60%が「事業用資産の全部を引き継いだ」としており、親族内承継については、他の形態と比較して「事業用資産の全部を引き継いだ」割合が低くなっている。事業承継の形態別に承継者に全部の事業用資産を「引継いでいない理由」については、親族内承継については「贈与税の負担が大きい」と回答した割合が高く、生前贈与では贈与税が大きな負担になっている。役員・従業員への承継では、「後継者が買い取る資金を用意できない」と回答した割合が高く、事業承継後に、事業用資産の全てを承継者が引継ぐには、承継者の資金が必要となることを示している。安定的な事業承継を行うためには、承継者が早期に金融機関との調整にかかることができるよう、現経営者が早期に意思決定し、承継者に伝えることが必要である。また社外への承継については「承継者が引継を希望しない資産がある」と回答した割合が高く、承継者が承継後の経営方針を検討するに際し、承継すべき事業用資産の選別を行っていると推測される5。3.先行研究からみた事業承継以上、事業承継問題の現状と課題について概説的にまとめたが、引き続いて文献研究により事業承継の課題と問題点について検討していく。今村(2017)は、創業者一族が事業継続力に及ぼす影響についての研究を行っている。分析では2つの指標が示されており、第1に取締役会の構成が企業の利益率・留保利益率に及ぼす影響、第2に株式所有の構成が企業の利益率・留保利益率に及ぼす影響、である。第1の取締役会の構成については、創業者一族の取締役が1人以上と0人では、利益率と留保利益率に有意な差異が認められており、創業者一族が取締役に在籍している企業の方が利益率・留保利益率がともに高いことを検証している6。つまり、企業にとっては系譜性という要素が重要であり、創業者一族の存在が、経営の意思決定に、なんらかの影響を与えていることについて指摘している。第2の株式所有の構成については、大株主が創業者一族である場合の方が、そうでない場合よりも留保利益率が高いという結果を示している。さらに創業者一族が大株主に含まれている企業に限定し、その他の株主の影響に関する分析を行うと、有意な差が認められなかったとしている7。これらから解ることは、創業者一族の経営への関与が、事業継続に際しては負の影響があると一般的な認識があるが、現実は正の相関を有しており、企業における系譜性が事業継続にとって重要な要素であることを示している。清水(1997)は、社長(経営者)の役割として企業の存立維持に向けて重視すべきことは、経営の効率化に向けてリーダーシップを発揮することよりも、経営の方向性、特に経営理念の明確化により一体的な経営を目指す意味でのリーダーシップが必要であるとしている8。すなわち事業における将来構想の構築や、経営課題について解決するための方策・手段を決定するのが、戦略的意思決定であるが、そのベースとなるものが経営理念の明確化であるとしている9。経営理5  中小企業庁編(2019) pp.82-83による。6  今村明代(2017) pp.59-76による。7  今村明代(2017) pp.77-92.による。8  清水龍瑩(1997) pp.111-114.pp.119-124による。9  清水龍瑩(1997) pp.111による。図表2 事業承継の形態別、承継した事業(出所)中小企業庁編(2019)p.81による

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