中小企業支援研究vol6
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中小企業支援研究 別冊 Vol.622解釈となっている。そのうえで、戸田(1984)は、承継者の能力や意欲といった資質について言及しており、清水(1997)は、承継者のリーダーシップを具現化した経営理念の明確化の必要性を重視している。これらを踏まえたうえで、事業承継プロセスと、その後の企業存立基盤強化のあり方として、高田(1974)は、ステークホルダーとの関係性を重視するに際しては、顧客と社会への「約束」としての社会的責任を果たすあるいは担うといった経営行動の源泉としての、経営理念の役割を重視している。すなわち事業承継については、事業承継者の資質に裏打ちされた「系譜性」をベースに、企業内外との関係性、そして事業承継のプロセスそのものの意義・価値に関する議論により考察されている。4.日本的経営の再評価日本経済の苗床であり地域経済の根幹をなす中小企業及び小規模事業者の事業承継を円滑に進めるうえで、日本的経営の再認識が必要である。日本経済及び地域経済社会における中小企業や小規模事業者の事業承継問題の課題解決に貢献すると考える。日本的経営は、その要素として「イエ」という組織重視の日本の文化・伝統の存在に基づいており、こうした潜在意識が日本的経営を支えている。日本的経営の特質の中心にgoing concernがある。アメリカなどにおいては、企業は利潤極大化の経済主体であり、株式価値の極大化が事業目的の主軸とされる傾向にある。ビジネスが軌道に乗り企業の財務データが最大となったところで、M&Aによりビジネスモデルごと売却するが、地域や従業員との関係性については考慮されない。これに対して、日本の企業、なかでも中小企業や小規模事業者においては、「going concern(企業は永遠なり)」、すなわち一度創業すれば孫子の代まで事業を継続していくというのが一般的である。しかし事業承継者難はこうした日本的経営の潮流を変貌させる要因となっている。事業承継は一朝一夕には実現せず、特に日本の企業はgoing concernを重視するため、従来からの企業における日本的経営の三種の神器である『創業の志(こころざし)』『のれん(信用)』『屋号(ブランド)』の承継が主要な課題となる。前述したとおり、中小企業や小規模事業者の場合は「超血縁制」「系譜性」から血族たる親族が最適となる。これは、長年にわたり日本人が有する潜在意識ともいうべきものである15。これには、経営者のみならず、従業員にも、自分の会社だという“オーナーシップ”を育む必要がある。従業員に活躍する場と権限を与えることは重要で、それは人財(ヒト)づくりにもつながる16。日本の中小企業経営者が事業承継を行う際に、第三者は可視化しうる客観的指標等を中心に評価する傾向があるため、中小企業の質的な評価がされにくい。しかし中小企業や小規模事業者にとって、本質的に重要なのは経営の「量(数値)」を追求することではない。経営の「質」を追求することである。中小企業経営の「質」を形成する要因は長年形成してきた経営理念であり、育成してきた人財である。「質」の担保にはサステイナビリティの実効性を高める手段としての事業承継が重要となる。すなわち、中小企業のM&Aを含めた事業承継(①理念の承継、②経営の承継、③議決権の承継、④歴史の承継)のあり方が重要で、これらを承継してこそ、事業承継は完結する。事業承継を成功させるには、「ヒト」を最重要視する経営としての日本的経営を、今こそ再評価すべきである。5.円滑な事業承継への処方箋中小企業及び小規模事業者が事業承継を行う場合に、大きく3つの方法が考えられる。1つには「親族への承継」、2つには「親族以外への承継」、3つには「企業の売却」いわゆるM&Aである。第1の「親族への承継」は、社内外ともに心情的に受入れられやすいということが最大のメリットであるが、親族内に必ずしも経営者としての資質や意欲をもつ人財がいるとは限らない。第2の「親族以外への承継」は、例えば従業員に承継させる場合、経営の一体性の保持という点では優位性を発揮できるが、個人債務の引継や承継者本人の資金不足といったことが懸念される。第3の「企業の売却」は、広く承継候補者を外部に求められるという利点があるが、従業員のモチベーションや経営の一体性の維持、また小規模事業の場合、買収を希望する先が非常に少ない等の、不都合な点が指摘されている。いずれにしても、経営者の高齢化が進む中小企業は、近い将来に事業を「承継する」のか「廃業する」のかの選択を迫られることになる。この問題の克服には、なるべく早期に着手することが必要で、時間的な余裕があれば事業承継にも余裕をもって取組むことができる。その際には外部の支援機関等を活用し15 佐竹隆幸(2008)pp.165-166を参照のこと。16 佐竹隆幸(2017)pp.285-288を参照のこと。

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