中小企業支援研究vol6
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中小企業支援研究 別冊 Vol.623参考文献今村明代(2017)『創業者一族の経営とコーポレート・ガバナンス』中央経済社.落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ―後継者の制約と自立のマネジメント―』白桃書房.佐竹隆幸(2008)『中小企業存立論』ミネルヴァ書房.佐竹隆幸編(2017)『現代中小企業のソーシャル・イノベーション』同友館.清水龍瑩(1997)『中小企業のための社長業の条件』税務経理協会.高田馨(1974)『経営者の社会的責任』千倉書房.中小企業庁編(2019)『2019年版中小企業白書』日経印刷.戸田俊彦(1984)『企業倒産の予防戦略』同文館出版.中村廉平(2017)『中小企業の事業承継』有斐閣.ながら行うことが望ましい。何よりも重要なことは、事業承継時はもちろん、その後においても企業価値の向上を図ることである。そして事業承継者については、普段から候補者を育成することが重要である。これには、さまざまなケースが考えられ、経営のノウハウや経営者としての資質を養うプロセスを模索していくことが重要となる。中小企業及び小規模事業者にとって、「永続的にその地域に存立していく経営実現(going concern)」を実効するには、円滑な事業承継を実現するのに必要な課題をいかに解決していくかによるといっても過言ではない。しかし現代の事業承継は、これまで主軸であった「親族への承継」に加え、「親族以外への承継」、「企業の売却(M&A)」など、事業承継の多様性を認識し、企業価値を最大限に高める事業承継戦略を講じなければならない。事業承継の主体となる現経営者がひとりで事業承継に取り組むには限界がある。承継者を決定するために必要な経営者意識の改革、高度な専門知識やノウハウ、さらには実務的な実効力が求められる。また自社の経営資源の脆弱性を起因とした承継者の不在や企業内において人財育成と組織運営ができる人財が不足しており、多様な事業承継を進める人財育成が確立されていないことなどから、中小企業の事業承継が思うように進んでいない。円滑な事業承継を生み出すための中小企業を取り巻く課題への対応力をどのように創出するかが問われている。つまり第1に「現経営者(承継する側)」、第2に「承継者(承継を受ける側)」、第3に「事業承継支援者・支援機関(サポートする側)」の人財育成を高度に実践することが不可欠である。たとえば地域経済団体や中間支援組織、大学等が「ヒトが価値を生み出す」多様な人財交流の場、学びの場、いわゆる事業承継に必要なプラットフォームの創出と形成により、事業承継プロジェクトとしてのチームビルディングで多様性を発揮しつつ、相互に関わりながら一丸となって円滑な事業承継を達成する組織体制を確立することが必要となっている。人財育成には、ベンチャー型事業承継、すなわち事業承継時に第二創業を行うことを前提とした①「現経営者(承継する側)」、「承継者(承継を受ける側)」の育成、また「事業承継支援者・支援機関(サポートする側)」において、②コンサルティング・スキルをもったビジネスパーソンとしての資質を有する人財、③「M&Aコンサルティング」に特化した金融機関・コンサルタント・経営者等に対する人財育成、④事業承継総合コーディネータとして公的機関・支援制度・専門家派遣等の活用を総合的にプロデュースできる人財の育成、⑤事業承継のプロセスにおいての多様な手続・法的検討・資産承継等の実務業務が可能な弁護士・税理士・公認会計士等中小企業経営実務ノウハウをもつ人財育成、といった高度に事業承継実務を担う専門職の育成が不可欠である。さらには⑥「企業等退職者人財」として、実際の事業承継者や中小企業の顧問として、企業等退職人材に対して、キャリアで培ってきたノウハウを生かし、事業承継を受ける経営者として実際に承継する、または経営者のサポート役をするために中小企業の経営に直接携わる人財の育成も必要となる。既存のビジネスモデルが行き詰まりを見せるなかで、中小企業における経営革新的戦略行動の結果としての第二創業が求められるなかで、事業承継は一つの契機となる。この際に、組織文化や組織行動、経営者と従業員の信頼関係に関するイノベーションも不可欠である。事業承継を契機として、今まさしく経営者の「質」が問われているのである。

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