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16特 集変化の時代を生き抜くFinTech活用46ず、FinTechは会計業務の生産性を向上させることによって、手間を最小化する。手間が最小化されれば、目的の達成は容易になる。また、FinTechは、会計データを高付加価値化することによって、会計の本来の目的である、事業の現況を正確に把握し、事業の運営に役立てることを可能にする。以下では、FinTechがもたらす可能性について、「会計業務の生産性向上」と「会計データの高付加価値化」の二つの観点から論じる。会計業務の生産性向上4 会計業務は、取引が発生してから、試算表として現況を把握することを可能にするまでに、大きく分けて、①証憑を整理し、②伝票を起票し、③それを帳簿に転記し、④集計を行った結果、試算表が完成するという4つの工程で構成される。会計ソフトが登場する前は、これら全ての工程が手作業であった。これを「会計業務1.0」と定義する。30年ほど前に、会計ソフトが普及を始め、会計業務は2.0の世界に進化した。「会計業務2.0」では、後工程、すなわち、③転記、④集計が自動化された。後工程が自動化されたことによって、会計業務の生産性は劇的に向上した。会計業務1.0の世界では、処理されていなかった証憑が後日発見された場合、全ての処理がやり直しとなる。これに対し、会計業務2.0の世界では、伝票を入力さえすれば、転記・集計は自動で行われるため、全てがやり直しとなることはなくなった。 一方で、会計業務2.0への進化から現在までおよそ30年経っているものの、2.0からの抜本的な生産性向上は実現できていなかった。しかし、ここ数年、技術の進化と規制緩和の相乗効果により、会計業務は新しいフェーズへの入り口に立っている。それが「会計業務3.0」である。 会計業務3.0の世界では、証憑は取引データとして電子的に収集される(最初から電子データである、もしくは紙データを電子化する)。取引データは、AI(Articial Intelligence, 人工知能)を用いて、仕訳データに自動変換されるため、仕訳の入力が不要になる。つまり、会計業務3.0の世界では、前工程、すなわち①証憑の整理、②伝票の入力までも自動化されることにより、取引の発生から試算表完成までの全ての工程が一気通貫で自動化される。これによって、再び会計業務の劇的な生産性向上がもたらされることが期待される。 会計業務3.0の世界では、電子データを証憑として活用することが望ましい。具体的には、銀行の取引明細や、クレジットカードの利用明細を、取引データとして活用することが可能である。これらは、現状ではインターネットバンキング等のサービスからデータとして取得することになるが、今後は、金融機関等が提供するAPI(Application Programming Interface)によって、より利便性高く、また、セキュアにデータとして取得できるようになることが期待される。金融機関等の取引以外にも、クラウド請求管理サービスやタブレットPOSのように、取引を管理するシステムからAPIを通じて取引データを取得することが可能である。 レシートなどの紙の証憑については、スキャン処理することでデジタルデータに変換し、さらにOCR(Optical Character Recognition,光学文字認識)処理を行うことによって、取引データとして扱うことが可能である。ただし、現状のOCR技術では金額や日付などの数字は比較的精度良く取り込めるが、店舗名はロゴデザイン化されていることも多く、精度は相対的に劣る。そのため、電話番号を読み込んで、電話番号のデータベースとマッチングを行うことによって店舗名を割り出すという工夫がなされている。なお、紙の証憑については、その整理・保管も手間となるが、昨今では、電子保存が認められる要件が緩和されている。要件を満たし、電子保存を選択した場合には、紙の証憑を破棄することも可能であり、証憑の整理・保管の手間が大幅に削減される。 中期的には、レシートを紙として授受するのではなく、電子レシートとして電子データで授受するサービスの普及が期待される。電子レシートであれば、そのまま取引データとして活用が可能である。既に日本でも電子レシートの実証実験が始まっており、今後の普及が期待される。 会計業務3.0の世界では、取引データをもとに仕訳データを生成するため、伝票の入力が不要となる。例えば、取引データとして銀行明細を基にする場合、銀行明細の日付、支払い額、預かり額、取引内容から、

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