view&vision46
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18特 集変化の時代を生き抜くFinTech活用46されたデータである。これに対して会計データは、仕訳という詳細な生データで構成されており、圧倒的に情報量が豊富である。例えば、損益計算書では売上は売上高という数字ひとつに集約されるが、会計データでは、仕訳として、いつ、どれだけの金額を、どこに対して売上が上がったのか、まで可視化される。さらに、複数の期間、あるいは、複数の事業者の会計データを時系列比較、もしくは、横比較することによって、様々な分析が可能になる。 これまで、会計データの利用は、決算書を作成し、決算・申告を行うという目的が中心であった。しかし、上述のように会計データは事業者の経営状況を網羅的に表現する情報の宝庫であり、AIを活用して分析することにより、より付加価値の高いデータとして活用することが可能である。 一例が監査業務での活用である。大手監査法人は、会計データから異常値をAIが検出するシステムを開発し、運用が始まっている。これは監査業務のアプローチを大きく変える可能性を有している。これまでの決算書ベースのアプローチは試査(サンプリング)であり、問題が見つかる可能性が高いフォーカスポイント、例えば売掛金に着眼し、試査によって確率論的に問題の発見を試みるという方法をとっている。これに対し、会計データベースのアプローチでは、フォーカスポイントは共通であるが、会計データとAIの組み合わせによって全網羅することが可能になる。また会計データだけではなくその元となっている販売管理システムのデータと照合するといったことも可能である。さらに、期末監査としてではなく、期中に日々モニタリングを行うことも可能になる。このように、会計データとAIを活用することによって、監査の生産性と品質を向上させる効果が見込まれる。 また会計データは、与信業務での活用も期待されている。弥生の子会社であるアルトア株式会社では、会計データに基づき与信判断を行う事業者向けの融資を2017年12月に開始している。 従来、与信判断は基本的には決算書ベースで行われてきた。しかし決算書は、過去の一時点におけるサマリー情報でしかなく、情報量が限られる。また情報量が限られるが故に、改ざんも容易である。与信判断を行う金融機関は、改ざんを見抜けるよう、人手をかけて審査を行うが、手間がかかるうえに、担当する人間によって判断にばらつきが出る懸念がある。これに対し、アルトアでは、会計データをAIで分析することによって、与信の精度と生産性を向上させている。会計データは、仕訳という詳細な生データで構成されており、圧倒的に情報量が豊富である。会計データは時系列の生データであるため、改ざんは不可能ではないが、決算書と比較すると相対的に難易度が高い。その反面、情報量が多いため、人間が分析することは難しいが、AIを活用すれば、時系列・全網羅での分析を行うことが可能である。AIであれば即時の自動審査が可能となり、また、人間のように担当者によって判断がばらつくこともない。 これまでにも、旧来型のスコアリングモデルによって会計情報で与信を行うことがあったが、旧来型のスコアリングモデルは決算書に依拠しており、情報量が限られるため、成功したとは言い難い。決算書では、売上は売上高という数字ひとつに集約されるが、売上が同じ2億円だったとしても、取引先が1社で1件の大型受注による2億円なのか、1社だが毎月受注が積み上がった結果としての2億円なのか、あるいは、取引先が10社あり、それぞれから毎月コンスタントに受注することによる2億円なのかによって事業者の経営安定度は大きく変わるはずである。しかし人手にせよ、スコアリングモデルであるにせよ、決算書だけに依拠する限りにおいて、このような売上の分散度合いを確認することはできない。しかし、会計データの場合は、売上高の仕訳を分析することによって、取引先の数や発生頻度などを詳細に分析することが可能である。 会計データに着目し、活用することは、従来の事業者向け短期融資ビジネスのジレンマを解消し、新しい価値を生み出すものである。これまで、従来の金融機関では、小規模事業者向けの少額短期融資はあまり積極的に行われていなかった。それは、従来の与信業務では審査に手間と時間、すなわちコストがかかりすぎるため、得られる金利収入と比べて、採算が合わないからである。つまり借りたい事業者が存在し、貸したい金融機関も存在するが、それぞれのニーズが経済合理性をもって折り合わないという「ジレンマ」に陥っていた。 これに対し、会計データをAIで分析することによって、与信業務のコストを大きく下げることができれ

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