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19特 集変化の時代を生き抜くFinTech活用46ば、借りたい事業者が借りることができ、貸したい金融機関も貸すことができる、そしてそれが経済合理性をもったビジネスとして成立することになる。つまりジレンマではなく、Win-Winの関係を実現することができるようになる。 さらにアルトアは、貸金業として自社で融資を行うだけでなく、金融機関でも会計データを使った融資ができるように、千葉銀行、福岡銀行、山口ファイナンシャルグループ、横浜銀行(50音順)と業務提携し、金融機関での実現を目指し検討を進めている。 ただし課題も存在する。例えば仕訳は必ずしも、1取引=1仕訳になっているわけではない。小売店などでは1日の売上が1仕訳(厳密には、現金・クレジットカードなど売上手段ごとに1仕訳)となっていることは珍しくない。また場合によっては、1ヶ月で1仕訳になっているケースもあり、事業者によって仕訳の粒度が異なることに注意が必要である。 また、取引の発生から仕訳として記録されるまでの時間差にも注意が必要である。会計データには必ずしも直近の情報が反映されている訳ではない。実際、会計データに反映されるまでに1〜2ヶ月のリードタイムがあることは決して珍しくない。さらに、会計データは正しいという保証はない。単純にミスによって誤ってしまっているケースもあれば、意図的な不正もあり得る。整合性を維持しつつ仕訳を改ざんすることは容易ではないため、不正を見抜くロジックは構築可能であるが、大きなチャレンジであることには変わりない。 AIによって会計データの高付加価値化を図ることは、事業者自身の経営管理業務においても期待される。本来、会計は、事業者が自らの事業の現況を正確かつタイムリーに把握するための手段である。しかし、決算書や試算表は、事業者にとって必ずしも理解しやすいものではない。監査業務や与信業務と同様に会計データとAIを活用することによって、現況を事業者にとってより理解しやすい形で出力することが可能になる。実際、会計ソフトと組み合わせて、経営状況を可視化するツールも登場してきている。これらはまだ広く行き渡っているとは言えないが、今後より一般的となること、そして会計の本当の目的、すなわち、事業者が事業の現況を正確かつタイムリーに把握し、事業を健全に運営し、発展させることに資すること、を果たすことが期待される。終わりに6 FinTechは会計を大きく変える可能性を有する。会計業務3.0の世界を実現し、「会計業務の生産性向上」に寄与することができる。また、「会計データの高付加価値化」によって、監査業務、与信業務、さらに経営管理業務を大きく進化させることができる。結果的に、会計はいやいや行う後向きな業務ではなく、本来の価値である前向きな業務になりうる。 ただし、現実には課題も多く、明日すべてが変わる訳ではない。すなわち、まだ活用の初期フェーズと言える。今後データと知見がより蓄積され、さらに技術が進化することの相乗効果により活用のレベルは徐々に進化していくだろう。そういった中で必要とされるのはまず一歩を踏み出すことである。やる・やらないという0/1の二元論ではなく、FinTechが当たり前のものとなる未来に向けて、活用できるところから徐々に知見を蓄えるべきであると考える。

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