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3446 本稿は、2018年4月14日に実施された東京工業大学における著者の最終講義の内容に基づいています。1.はじめに この『私の考える複雑なシステム』というタイトルは、『社会システム全般』を意味しています。社会システムの中で、一番小さくて大変なのが家庭の経営です。国家、世界を論じていたほうがよほど楽だと感じています。世の中でいう「複雑なシステム」は、Complex Adaptive System、いわゆる複雑適応系となるわけですが、これは少し狭い。「カオス」(Chaotic System)も複雑な挙動は示すけれども、実は簡単に書けてしまう。複雑なモノ・コトを相手にしたいと思ってはいても、我々はどうしても、物事を単純にしたいわけです。そこで、昔からいろいろなへりくつをこねて世の中がわかった気になってしまう。太陽は誰が作って、月は誰が作って…、どこの神話にもありますが、これも何とかへりくつを付けて、世の中をわかったようにしてしまいます。それと同じことがやはり学問の世界でも起きています。しかし現実は、家庭の問題も含めて非常に複雑に見えます。 私の立場は、複雑なシステムを理解する新しい方法として、エージェント・ベース・モデリングと、進化計算の考え方をもっと積極的に使おうではないかというものです。エージェントで複雑な社会を見るというような考え方と、ダーウィン流の進化的な考え方は、非常に相性が良いと信じています。エージェント・ベース・モデリングでは、人間でも、組織でも異質な要素を多数準備しておいて、その多数の相互作用の中から、創発する現象を観測する方法をとります。さらに、進化計算では、構成要素を数多く準備しておいて、それを組み合わせることによって、生物が進化するように新しいコト・モノをいくらでも作り出していきます。この2つの原理によって、複雑なシステムを理解しようというものです。なぜ、このような考え方に至ったかについては、長くなるのでここでは述べませんが、例えば、人工知能誌に書いた解説をご覧ください1。2.エージェント・ベース・モデリングの考え方 エージェント・ベース・モデリングのミクロ・マクロ・リンクの話をします。まずエージェントというのは、内部状態と意思決定と通信機能の3つを持ったような主体のことです。これは、人間のモデルであってもいいし、組織のモデルであってもいいし、また分子みたいなモノであってもいい。そうするとエージェントのマイクロなインタラクションの中から、ボトムアップな影響でマクロな秩序が創発します。モデルを作る、世の中を見たいという立場からいくと、ミクロな状況は詳しく観察できないので、マクロの現象を見て、それでマクロ変数間のモデルを作るというようなやり方で、学問が大体進んできました。例えば、エージェン私の考える複雑なシステムトピックス千葉商科大学特別客員教授(サイエンスアカデミー)寺野 隆雄TERANO Takaoプロフィール1978年東京大学修士課程修了1978~1989年 電力中央研究所1990~2004年 筑波大学・講師・助教授・教授2004~2018年 東京工業大学・教授2018年~ 産業技術総合研究所・千葉商科大学研究員ほか東京工業大学・筑波大学名誉教授 工学博士

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