view&vision46
39/54

3746トピックスとそのまわりの世界の状況を、ボトムアップに記述さえすれば、コンピュータ上でシミュレーションできてしまいます。その記述は、コンピュータにもわかるし、わかりにくいことは確かですが人間にも理解できます。しかしこれは、実験的になって、特に第1次原理がないような世界でのモデルですと、膨大なパラメータ調整が必要になります。 たとえば、人口動態の重力モデルは、ニュートンの重力方程式がもとになっているわけですが、重力定数に当たるパラメータで結果はどうにでもなります。エージェントでモデル化すると、とりあえず、人の移動は観察できます。ということは、両方のアプローチは相補的な関係にあって、社会問題のモデル化をするときは、この物理学の方法と計算科学の方法の両方をきちんと考えておかなければいけないわけです(図4)。4.システムをつくること ここで、システムを作ることに話を移します。人工知能ブームの影響もあって、最近、いろいろな所で「先端的なシステム」の話を聞きます。特にビジネス分野ですと、いろいろなことができる巨象のようなシステムが作られています(図5)。 ところが、この象を作るというところで体力を使い切るケースが多いのです。体力を使い切るとどうなるかというと、この象に頼り切って業務が全部進みます。個々人が象を直接扱うことは、とても許されません。それで、組織の構成員に賢い方が多いとなると、象の一部を切り取ってきて、鼻のシステムを作ったり牙のシステムを作ったり、耳のシステムを作ったりということで業務を回してしまうようになります。業務がうまく回っているという限りでは、これ自身はそう悪いことでもないのですが、今の人工知能・ビッグデータの大波が来ると、鼻や牙を再び象に作り直さないといけません。そうすると、つぎはぎだらけのフランケンシュタインみたいになってしまうわけです。 これが今のビッグデータをきちんと使おうとして、大企業で起こっていることではないかと、私は思っています。最近の人工知能ベンチャーの方々は、よく「ディープラーニング学習で何とかしてみます」というようなことで売り込んで来られるのですが、これで鼻の部分を賢くすることはできても、象を作り直すことはできないでしょう。そうして、鼻ばかりにこだわっていると、いろいろ変なことが起こってくるのです。 システム化することは元来非常に面倒なことで、しかもいったん完成するとすぐ古くなります。そのため、分割して一部だけの機能を利用するか、思い切って捨てて再構築をする必要がでてきます。この再構築には、金と期間と勇気が必要で、そこに経営判断が入ってきます。銀行の業務システムの再構築に何でそんなにコストがかかるのかと思うかもしれませんが、それが事実です。 ところが、一方の最近のビッグデータの傾向などを見てみますと、データ量がディープラーニングするには3桁ぐらい少なかったり、またデータが汚なかったり、もともと存在しないのに学習で賢いシステムを作れませんか、というような話になっています。 システムを相手にする場合、我々には、分析、設計、発想の全ての能力が必要になるわけです。分析は理学の世界です。設計開発は工学の世界です。あと、発想は感性の世界です。この3つがうまく組み合わされないと、良いシステムにはなりません(図6)。いずれにしても、ルイスキャロルの『不思議の国のアリス』に出てくる「赤の女王の定理」じゃありませんけれども、走り続けなければどんどん古くなることを認識し図4 社会問題への横断型アプローチ図5 大規模システムは「盲人、象をなでる」現象を引き起こす(写真:中国・武漢現代美術館より)

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る