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3846トピックスておかなければなりません。 システムも簡単にはしたいのですが、その一方で、対象を複雑なままで扱うことができないだろうかということに、私自身大きな興味があります。ただ、社会の問題はシステム化だけで解決できるわけではありません。最近、『Word of the Year by Oxford Dictionary 2017』で選ばれた「Post-Truth Era」ということばがあります。ここで強調されているのが、真実(truth)よりその影響(impact)を重視する時代であるということです。例えば、現代はSNSのインパクトが非常に強調されています。ただし、これも、例えば10年くらい経ってしまうと、「昔はSNSでみんなだまされていたのだよね」とかいう話題になるかと思います。フェイクニュースだとか風評被害などが社会問題になっていますが、私は、これはいい傾向だと思っています。昔は大きな組織でないと情報操作はできなかったのですから。 個人の力が非常に強くなっているがゆえに、「post-truth」という考え方が影響力を持つようになったと思っています。個人の力が強くなった理由は、いろいろあるとは思いますが、ひとつはコンピュータの進歩ということで、まとめさせていただきます。 1977年をまず基準にとります。1977年はエポックメイキングな年で、このときに「Apple II」が発売されています。同時にジャンボ機ボーイング747が初飛行しています。「Apple II」とジャンボ機が、その頃、技術的に同等な物だったとすると、「Apple II」は4キロバイトのメモリーで1メガヘルツに届かないようなスピードで動いています。価格は35万円でした。ジャンボ機はそのとき300トンの人間貨物が運べ、1000キロメートル/時ぐらいで飛べて100億円で、これが当時のスーパーコンピュータ「Cray-1」と同じような値段だったといわれています。 では、メモリーが運べる量でCPUのスピードが速度だとすると、2018年の今ではどうなるか。アップルで今一番速いのは「iMac Pro」で、128ギガバイトのメモリーを積んで18コアXEONプロセッサー、ワンプロセッサーだとサイクルタイムは3.2ギガヘルツです。これが全体で150万円ぐらいで買えます。ジャンボ機が同じスピードで進歩すると、今では300億トンの貨物が運べ、6000万キロメートル/時で飛べて(これは光よりはるかに速いです)、400億円ぐらいで買えることになります。 こんな進歩の速さですから、コンピュータの新しい使い方が個人の力に影響を及ぼすのも当たり前です。5.これからどうするべきか 日本の学術の状況を見ていると、不愉快な真実が非常に気になります。大学研究者、教育者に余裕がない、余裕がある人は多分いません。研究予算が選択と集中の結果、競争的過ぎます。加えて、大きな企業で、いわゆる企業の中央研究所がなくなっていますし、企業で研究者といわれている方でも、好きなことをやっている方はほとんどいません。 一方、2017年度のJSPSの科研費の助成総額は、全体で2300億円弱です。これにIPS細胞もスーパーコンピュータも入っているわけです。Amazonの研究費は226億ドルだそうです。日本で一番多いのはトヨタで約93億ドル。わが国の企業の研究開発費の総額は、ちょっと古いデータになりますが、大体12兆円とか13兆円ぐらいの金額です。そのうち、企業から大学に移っているのが300億円から400億円。いくら優秀な研究者であっても、これだけ金額に差があると敵うわけがありません。これが我が国の学問の非常に悲惨な状況なのです。 では、我々はどうすればよいのでしょうか。無力な我々にも以下の2つの対応策があると考えます。 まずは、国際化です。国際化は、実はあまりお金がかからなくなっています。「欧米でやっているから日本でも…」という文言はいまだに研究提案を作る上で役に立つセリフです。実際のところ、中国のほうが進んでいることは多いのですが。そして、上を説得する図6 システム化要件と分析・設計・発想の繰り返し原理例題両方を回せる人材が必要発想(Abduction)分析(Analysis)理学設計(Synthesis)工学芸術

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