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4346オリンピック復興運動に関する社会文化史的考察  研究プロジェクトの開始にあたって  プロジェクト研究報告リサーチ&レビュー千葉商科大学商経学部専任講師大賀 紀代子はじめに 今回、経済研究所より2018年度から2019年度にかけて、2 年間のプロジェクトとしてオリンピックに関する研究プロジェクトを立ち上げることとなった。 2020 年に東京オリンピックが開催されることが決定されてから、高等教育機関においては、オリンピックに関する研究に取り組み、オリンピックの歴史や意義について広く社会に伝えることが期待されている。そこで、「オリンピック復興運動に関する社会文化史的考察」と題し、専門分野の異なる本学教員6名が、それぞれの専門に関する領域からアプローチをすることで、オリンピックの歴史や意義について多面的な視点から考察を行うこととした。19世紀のオリンピック復興運動という歴史的な事実に着目し、これに関する議論がどのような社会背景で起こり、どのような論争を生み出し、どのようにして向かうべき方向が形成されてきたかについて、共同研究を通じて明らかにしていく予定である。 研究メンバーは、師尾晶子教授(歴史・文化領域)、藤野奈津子教授(法・歴史領域)、荒川敏彦准教授(社会・文化領域)、沖塩有希子准教授(教育・歴史領域)、朱珉准教授(経済・社会領域)、そして筆者(経済・歴史領域)である。1.プロジェクトの概要 近代オリンピックの研究は、長らくクーベルタンの思想の研究、あるいはオリンピック普及運動に重要な足跡を残した人物の哲学をめぐる研究に特化されてきた。 また、東京オリンピックの開催が決まってからは、児童に対するオリンピック教育およびオリンピックの経済効果の研究にほとんどの研究が振り向けられている。この現状は、本プロジェクトが再検討を試みようとしているオリンピック復興運動についての新たな視点からの考察とは異なっている。事実、直近の研究として、2016 年末に出版された『学問としてのオリンピック』(山川出版社、2016年)においても、これまでの欧米におけるオリンピック研究を問い直すような論考はほとんどなく、新たな視角が提示されることはなかった。 そこで、本プロジェクトにおいては、これまでの欧米における研究の蓄積を受容しつつ、当事国であることによって、相対的な評価が加えられてこなかったイギリスとギリシアにおけるオリンピック復興運動について再検討を行うことで、これらの復興運動がクーベルタンの主導による近代オリンピックの開催までの道をどのように切り開いていったかを明らかにする。 本プロジェクトでは、特に以下の諸点に焦点を当て、議論を深めていく。(1)啓蒙主義思想と古典古代の受容の諸相 18世紀に英仏独で広がった啓蒙主義思想は、上流階級の人びと、知識人・エリートの往来とそれによるネットワークを介して、ヨーロッパの他の地域にも拡散していった。啓蒙主義思想が、近代国民国家の形成に重要な思想的根拠を与えたことは言うまでもない。一方、啓蒙主義思想の発展の背景には、古代ギリシア・ローマ文明についての研究と模倣があった。古典古代文明のなかに《偉大さ》を発見し、そこに《偉大な近代国家》を形成するための模範を見い出したのである。スポーツについての関心も同様であった。 19世紀半ば近くになると、オリンピックの復興運動がヨーロッパのさまざまな地で始まるが、最も持続的かつ熱心に行われたのはイギリスと独立後まもないギリシアであった。本プロジェクトにおいては、イギOGA Kiyoko

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