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46464.近代オリンピック開催以前にギリシアで開催されていたスポーツ競技祭についての調査(アテネ)。5.商業主義的な現在のオリンピックに異を唱え、古代オリンピックの精神を思い起こさせる場として 4 年に 1 度オリンピックの年に開催されているネメア競技祭の地の調査(ネメア)。 以上、5 つの観点から調査を実施したい。19 世紀オリンピック・ムーヴメントの関連施設を見学するとともに、そこに保管されている一次史料を閲覧したい。そして、その一次史料を日本国内において分析し、啓蒙主義思想と古典古代の受容との関係性を明らかにしていく。一次史料については、メンバーの間でその内容を共有できるよう、翻訳もすすめていきたい。調査時期は、2019 年 2 月を予定している。3.むすびにかえて 前述のように、近代オリンピックの研究は、従来、クーベルタンの思想の研究に特化されてきた。近年、とりわけ2012年のロンドンオリンピックを契機に、イギリスにおけるオリンピック復興運動にも関心が向けられるようになったが、研究の中心は、中上流階級およびパブリックスクールにおけるスポーツの伝統とクーベルタンの思想との関係におかれるにとどまった。この間、労働者教育の一環としてスポーツを推奨したブルックスの紹介もおこなわれたが、ブルックスの思想と中上流階級の教育と文化との関係、ブルックスの目指したものと古代オリンピックの関係ならびに近代オリンピックの創造との関係について検討されることはほとんどなかった。また、同時期にギリシア人の知識人、富裕者のあいだに生まれたオリンピック運動については、ほとんど顧みられることもなかった。本プロジェクトにおいては、これまでばらばらに言及されることはあれ、総合的に考察されることのなかった、イギリスとギリシアにおけるさまざまなレベルのオリンピック復興運動とクーベルタンの行動・思想との関係を明らかにしていきたい。さらにギリシア王国の国王を輩出していた19世紀ドイツにおけるスポーツ思想を取り上げることから、オリンピック・ムーヴメントをさらに重層的に解明していく。わが国において類似の研究は存在しないばかりか、海外におけるオリンピック研究においても、このような研究はほとんど手つかずの状態にある。その意味で、本プロジェクトの共同研究としての意義は大いにあるといえよう。さらに、本プロジェクトにおいては、オリンピック・ムーヴメントの全体主義国家における受容、中国における受容といった視点にも取り組み、近代オリンピックの創造の過程で内包されていた問題がどのように展開されていったかについても、新たな視点から切り込む予定である。この点でも、類例を見ない研究といえよう。パナシナイコスタジアム

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