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346特 集変化の時代を生き抜くFinTech活用業の事例を熟知する税理士といった識者をお招きし、公開シンポジウムを開催した。100名を超える方々にご参加いただき、大成功のシンポジウムとなった。 そこで今回の 『CUC View & Vision』は、「変化の時代を生き抜くFinTech活用」をテーマとし、シンポジウムでご登壇頂いた方々に寄稿をお願いした。シンポジウムで得られた貴重な知見を広く共有することを目的としている。 1本目は、千葉商科大学会計ファイナンス研究科教授で公認会計士としても活躍されている中村元彦氏による「変化の時代を生き抜く FinTech 活用  明るい未来の会計・税務に向けて 」である。ここでは、FinTechの概要、FinTechを国家戦略の一環として導入しているエストニアの事例等が紹介され、日本の動向についても述べられている。会計・税務の業務に携わる会計人は、FinTech活用による業務の効率化、簡素化といった変化を前向きに捉え、専門家としての役割を強化する機会とするべきであると示されている。7月7日の公開シンポジウムの議論を受け、経営者の意識改革や人材育成の重要性も改めて訴えている。 2本目は、千葉銀行経営企画部フィンテック事業化推進室兼T&Iイノベーションセンター株式会社の関谷俊昭氏による「オープンAPIへの取組みについて」である。同行は2020年を目標に社会全体の「デジタル化」に対応する「デジタルバンキング」へのシフト実現を戦略として掲げている。TSUBASAアライアンス(千葉銀行がFinTechをはじめとする先進的なIT技術を調査・研究するために発足した営業地域の異なる地銀ネットワーク。現在7行が加盟)により、API、AI、ビッグデータ等、先進技術を活用した新たなビジネスモデルを積極的に推進しようとしている。急速な技術発展に伴い、顧客利便性や顧客満足度向上等を目的に、他社・異業種サービスとの連携で更なる付加価値を見出す動きも活発化している。 3本目は、会計ソフトベンダーのトップランナーである弥生株式会社代表取締役社長岡本浩一郎氏による「FinTechが変える会計の今とこれから」である。1987年に会計ソフト「弥生シリーズ」を発売以来、会計ソフト業界のトップリーダーとして実績を挙げてきた同社だからこそ言える「会計の本質的な価値」、「理想と現実のギャップ」、「FinTech がもたらす可能性」といった、「FinTechを中心とした企業会計の今」が紹介されている。FinTechにより会計業務の生産性向上と会計データの高付加価値化が期待できるが、その価値を得るために、さまざまな課題を解決しつつ、前に進むことの重要性が示されている。 4本目は、税理士法人行本事務所 代表社員税理士・株式会社YKプランニング代表取締役の行本康文氏による「会計事務所のビジネスモデル発生からフィンテック」である。本寄稿は、占領政策下の日本において発生したアナログ的な会計事務所のビジネスモデル紹介から始まる。その後に起こったITイノベーション、手書きの帳簿の技術者とのバトル、消費税の影響や会計ソフトのガラパゴス化など、会計業務の変遷について述べられている。企業会計の課題を解決するために、会計データを一元化する財務維新を開発し、クラウド会計・経理サービスの提供に至った経緯と、中小企業と金融機関を繋ぐビジネスの重要性についても論じられており、大変興味深い。 以上、本特集に寄稿いただいた4本の論説は、それぞれ視点からFinTechの潮流とその重要性について述べている。筆者は情報技術者でもあり、AIやビックデータ解析といった技術が進歩した現代社会において、FinTechの流れは止めることができないと感じている。経済活動のグローバル化に直面している今、FinTechを適切に活用することで、ビジネスを高付加価値化することは極めて重要である。FinTechによる変化を新たなビジネスチャンスと捉え、基盤となる知識をしっかりと身につけた人材を育成し、一歩踏み出すことが必要であろう。1 PwC Global FinTech Report March 2016、「曖昧になる境界:フィンテックは金融サービスをどのように形成するか」https://www.pwc.com/jp/ja/japan-knowledge/archive/assets/pdf/ntech-nance1607.pdf2 中小企業庁、「決済事務の事務量等に関する実態調査」(株)帝国データバンク、平成28年10月(2016年)千葉商科大学副学長 経済研究所長橋本 隆子HASHIMOTO Takako

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