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4846な運営と発展を実現することを強調された。 FinTechがもたらす可能性を次のように指摘された。 「証憑整理→伝票入力→転記/集計段階の手間がかかる=書類が溜まる」という負のスパイラルでは、手間が最小化され、目的の達成が容易となる。会計の本質的価値は、自社の経営管理業務にこそ活用されるべきで、事業の状況を正確かつタイムリーに把握することで、データが高付加価値化されることを力説された。 会計業務は、手書きと電卓による“1.0”から弥生会計による“2.0”へ、さらにFinTechにより、証憑の整理から記帳、試算表作成までを一気に自動化する“3.0”の段階にある。会計業務の生産性向上により、会計作業を大きく変える可能性を有している。今後、会計業務は嫌々行う仕事ではなく、本来の前向きで付加価値の高い業務に成り得る。更に試算表を会計ソフトと組み合わせることで、経営状況を可視化するツールを紹介された。一方で、活用の初期フェーズであり、まだ解決すべき点は多いが、今後、データと知見がより蓄積されることに加え技術が進化することの相乗効果により、ある程度の時間を要しても、活用のレベルは深化していくことが見込まれる。企業には、活用できるところから徐々に知見を蓄えていくことが求められると結ばれた。4.会計事務所のFinTech・AI活用によるデジタル化への挑戦 行本康文氏(税理士法人行本事務所 代表社員税理士)は、共通のプラットフォーム構築に向けて、過去のイノベーションの体験談を語られた。シャウブ勧告から始まった戦後の財政改革の経緯から標準課税をどう計算するのかという問題意識から、簿記の始まりや税理士制度ができたビジネスモデルの始まりを解説された。FinTechに例えられる事例として、約35年前のコンピューター出現に伴うイノベーションにおいて、コンピューターが瞬時に試算表や決算表を作ってくれることに抗議する反対集団(そろばんなどのスキルを持った方々)が、自分たちが失業すると訴えて、集団退職をすると宣言した。しかし、消費税の導入により経理に二度目のソートが必要となったことから、結果的にコンピューターの導入に踏み切った。さらに、消費税の大反対運動によって簡易課税が発生し、益えき税ぜいが発生する仕組みとなった。技術進歩に同調しなければならない情勢になったことが前進の契機となり、イノベーションは折り合いがついた。この第一のイノベーションの際に、技術進歩に対応する会計ソフトメーカーが生まれた。弊社は事業をソリューション化するために、当初はエクセルとの戦いだった。仕様のバラバラなソフトを一元化して使える「財務維新」が会計事務所のソリューションとなった。FinTechも同じ道を歩んでいると結ばれた。5.AIは仕事を奪うか 橋本隆子氏(本学副学長・経済研究所長)は、2030年頃には、日本の労働力人口がAIやロボット等で代替可能性が高いとする100種の職業に会計監査員が含まれるとした外部機関の予測から、伝票起票、帳簿記帳、決算書の作成といった比較的単純な経理業務は、ERP(Enterprise Resources Planning)などのシステムによって既に実現されているが、果たして「知識や経験が必要とされる会計業務もAIで代替されるのか」と問題提起された。AIと人間の理解の違いとして、人間は観察と実験から知見を積み上げ、仮説とメカニズムの理解を行い、その結果として何等かの知識を獲得する。これに対し、機械のアプローチは数理で記述できる条件や変数の値などの積み上げで判定する。機械の理解の仕方は「理解できない人間の理解を助けない」ことを挙げられた。 AIと会計との関係では、AIが得意な仕事として何らかのルールに基づく分類パターン認識を挙げられた。一方で2018年7月時点での限界として、例外処理(不正会計検出など)はまだまだ難しい側面や、結果が安定しないデータの傾向に引きずられる特性上の課題と共に「Big Data」を手に入れることが難しい点も指摘された。AIを活用してその結果を適切に評価できる人材が望まれる。変化が著しさを増す中で、それを「積極的に受け入れたい人々、待ちこがれている人々」と「変化を恐れる人々」との相克がある。恐れる人々は今のところ、ナショナリズムやポピュリズムなど、過去の手法に解決策があると思っている(クラウス・シュワブ)を引用され、新会計教育を取り巻く意識変化の重要性を指摘された。

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