view&vision46
52/54

5046 本講演では、岩下直行教授(京都大学 公共政策大学院教授、PwCあらた有限責任監査法人スペシャルアドバイザー)による、ブロックチェーンの決済機能に関する基礎的解説後、信用創造機能に拡げた議論が展開された。各国の金融インフラ等の状況毎の文脈に影響を受け技術利用特性や当該技術の受容形態が変化するため、ユースケースと成り得るか否かは、利用環境に左右されることを示唆するベネズエラやアフリカ等の事例にも言及された。 単なる技術トレンドの繰り返しを超えて、自律分散型組織から中央集権型への本質的回帰の予兆である、トラストレス技術として進展するほど逆説的にトラストな制度を必要としつつある状況を示された。ポストバンク時代が到来した場合にも残る可能性の高い、バンキング要素を束ねる、資金の流れに関する可視化ツール以上の媒体としての当該技術価値の将来動向予測が行われた。 分散型組織を目指すほど逆説的に、中央集権型の銀行システムの正当性を証明しつつある、一部開発者やユーザーの過度なリバタリアン的期待を覆す公的機関の役割の再定義への議論を紹介された。また、集団特性の利用による変動制御、マイニングの報酬に偶然的要素が含まれている等のゲーミフィケーション的仕掛けといった人間特性の実験場となっているBitcoin前史からICOまでの技術ロードマップから、X-techが金融の効率化を通じ産業の前提を変容させる人間行動を追跡可能とする媒体としての技術的側面も解説された。 技術デザインとしては、あえてリアルタイムレスポンスの即時性ではなく、新ブロック生成のデータ処理確定に時間がかかる不便益な仕組みや、マイニング参加者のPOWを想定するなど、ヒューマンファクターを積極的に活かしていることにも言及された。初期の設計段階では、考案者が自身の金融リテラシーを設計思想に投影したがために「ギークだからできるだろう」という「安全で安価なブロックチェーンができていたギークだけの世界」から一転「想定しない世界が発生した」ことによる各種弊害や、各国が注目している我が国の金融庁の規制動向にも言及された。 「仮想通貨を卒業して、キャッシュレス化してみたい」という岩下教授のヴィジョンは、金融業界特有の「金融政策はアート」とする理念と、「人工知能と将来は融合してみたい」という理想像から、本学の学長プロジェクトが目指す安全安心な金融インフラの実現への道筋や、本学の理念である「高徳の実業人を創る」ための教育に多くの示唆を得た。事業レポート2018年5月12日第16回ユニバーシティ・レクチャー仮想通貨とブロックチェーン〜最近の動向とその近未来〜千葉商科大学 経済研究所 一般客員研究員鈴木 羽留香SUZUKI Haruka

元のページ  ../index.html#52

このブックを見る