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5特 集変化の時代を生き抜くFinTech活用46海外の動き(エストニア)3 IT活用が進んでいる国としてエストニアが挙げられることが多いが、政府税制調査会海外調査報告2が平成29年6月に公表されているため、この内容を紹介する。エストニアでは、個人の記入済申告書の作成に必要となる各種情報が、雇用者・金融機関・控除関係機関・行政機関等から、申告書や法定調書等を通じ、電子的に国税庁に集まる。このため、給与所得者等については、国税庁に集まる各種情報があらかじめ記入された申告書(記入済申告書)を給与所得者等に送付する仕組みとなっており、修正の必要がなければ、クリックのみで確定申告が完了する。 企業に関しては、新興企業や中小企業の経理・税務のサポートのため、政府が納税システムとリンクした企業会計システムをオンラインで提供している。また、企業は、法人税や付加価値税等の申告書(毎月提出)の作成、電子インボイスの作成、納税等を迅速・正確に行うことが可能となっている。エストニアは付加価値税に関連してインボイスが必要となっているが、このインボイス情報を発行者側・受領者側の両方から受け取り、マッチングをすることにより、不正インボイスの問題に対応している。 エストニアは日本に比べると、人口も少なく、そのまま日本に適用できるというわけではないが、国民に効率的に行政サービスを行き渡らせるために、様々な手続の電子化を推進しており、参考となる点は多いと考える。従業員数5人超の法人は、法人税(法人所得ではなく支払配当等が課税標準)や社会保障税等に係る申告書を電子的に提出する義務があり、電子申告割合は2013年では99%となっている。日本でも平成30年度税制改正により大法人の電子申告の義務化が進められているが、この動きはエストニアを追いかけていると考えられる。国の動き4 日本においても行政手続等のデジタル化の推進を国は進めている。この一つとして、行政のあらゆるサービスを最初から最後までデジタルで完結(行政サービスの100%デジタル化)するために不可欠な三原則(デジタルファースト、ワンスオンリー及びコネクテッド・ワンストップ)に沿って、政府一体となってBPRを徹底し、手続オンラインの徹底、添付書類の撤廃、ワンストップサービスの推進に取り組み、国民・企業の時間・労力の無駄を削減するとともに、行政運営の効率化を実現3するとしている。 三原則をデジタルファースト・アクションプランとしているが、詳細は下記となる。①デジタルファースト:原則として、個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する。②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする。③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスがどこからでも一か所で実現する。 行政サービスのデジタル改革断行を民間部門のデジタル改革及びIT・データ活用ビジネスの推進につなげるとしており、社会全体が大きく変化する可能性が高まっている。この基盤となる必要なものとして、行政分野におけるサービスやデータの標準化が挙げられる。特に、ビッグデータを意識すると、標準化の議論を避けて通ることはできず、国が主導で標準化を行い、民間でこれを利用することは効率的と考えることができる。行政保有データの100%オープン化や情報連携のためのAPI4整備の推進なども掲げられており、民間での利活用にもつながる動きが進んでいる。 例えば、金融商品取引法に基づく開示である上場会社等が提出する有価証券報告書は、紙ではなくEDINETによる電子開示となっている。EDINETでの対象書類は標準化され、XBRL5方式を採用していることから、財務諸表の開示データを再利用や加工することが容易となっており、利用者は紙しかなかった時代と比較すると格段の利便性を獲得している。EDINETでは外字の利用は認められていない。導入当時、筆者は日本公認会計士協会のIT委員会の委員の立場で関わったが、例えば、名前に特殊な文字を使2 税制調査会(2017)「政府税制調査会海外調査報告(エストニア、スウェーデン)」http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2017/29zen10kai7.pdf,2018年7月25日3 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(2018)「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20180615/siryou1.pdf,2018年7月25日4 Application Programming Interfaceの略。複数のアプリケーション等を接続(連携)するために必要なプログラムを定めた規約のこと。5 XBRL(eXtensible Business Reporting Language)は、各種事業報告用の情報(財務・経営・投資などの様々な情報)を作成・流通・利用できるように標準化されたXMLベースのコンピュータ言語である。

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