view&vision46
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7特 集変化の時代を生き抜くFinTech活用46関に仕訳レベルでの情報を提供すると、顧客にとっても融資におけるメリットが生じるならば、企業の理解も得られやすいし、ビッグデータに関してもデータの提供によるメリットを出すことが重要との意見が出た。すなわち、Win-Winの関係が構築できるかどうかではないかという考えである。また、ビッグデータの制約として、ビッグデータのために集めるデータ自体が使える状態になっていないことが述べられた。これは、「4.国の動き」で述べた標準化がなされておらず、データ項目に、本来入るべき情報が適切に入っていない状態が考えられる。 第二の質問は、業務が変わることに対する現場の抵抗である。会計監査の分野でも同様であり、現在、大手監査法人を中心にAIなどの技術を監査現場で活用しようとする動きがあるが、いくつかの監査法人でヒアリングした際に、監査の現場での抵抗という課題が出ていた。これは、現状で大きな問題がないのに、なぜ、業務を変えなければならないのかという現場の声であり、必要性という総論では賛成でも、自分が直面する業務の変化に対しては受け入れにくいという問題である。この点に関して、パネリストの方々がどのような抵抗を経験し、どのような対応をされているかについての質問である。 これに対し、パネリストからは新しいことへのチャレンジの抵抗はあるというコメントが出るとともに、現場からその業務が本当になくなっていいのかという不安の声が出ていることも紹介された。また、現状を変えるのに新しい価値観が必要で5年はかかるというコメントと、もっとかかり5年から10年はかかるのではないかというコメント、経理業務で二重手間を実施しているが止めなければならなくても止められないケースの話など活発な議論がなされた。また、対応として、組織においては進める際に共感を得られた部署を巻き込んでいくことなどが紹介された。 最後となる第三の質問は、FinTechから見た明るい将来像に関するものである。AIやIoTなどで自分の仕事がなくなってしまうのではないかという不安を感じて、質問をされる方もおり、マスコミでもそのような記事が出ることがある。確かに単純作業がなくなることは事実だが、創意工夫など人間としてAIに負けないものは無限にあると思われるだけに、ITはツールと考え、明るい未来という観点で意見を求めたものである。パネリストからは熱い思いが語られた。また、途中、会場からの質問を受けたところ、多くの質問をいただいた。質問の詳細は割愛するが、予定時間を超える多くの質問があり、会場の出席者がこの分野に強い関心を持っていることを感じた。おわりに7 変化の時代を生き抜くFinTech活用というテーマで、筆者は会計・税務という観点から述べたが、シンポジウムのパネリストから多くの刺激を受けるとともに、明るい未来の会計・税務という方向性を強く感じることができた。特に、シンポジウムの中で、単なる変化ではなく、新しい価値が生まれてきているとの意見は、変革と言ってもいいのではないかと感じている。それだけに現場でも意識改革を求められることとなる。また、経営者は特に意識改革が重要であり、シンポジウムでは躊躇している経営者への厳しくも暖かいエールのコメントもパネリストからあった。 会計帳簿について考えると、紙の会計帳簿から会計ソフトを利用する会計帳簿が主流となり、大きな変化が生じた。これが、大企業と同様に中小企業も銀行などからの外部データを会計帳簿に取り込みが可能となり、今後、国の行政手続等のデジタル化の推進により、より幅広い範囲でデータの取り込みが可能となるという第二の変化が生じると考える。特に、いわゆるインボイス(適格請求書)制度が平成35年10月から開始予定であるが、電子化され電子インボイスとなると、大きな変化になると考えている。 最後に、このような動きの中で、大学・大学院の教育について述べておきたい。会計処理の自動化が進んだとしても、会計の知識がないと会計処理が正しいかどうかの判断ができない。例えば、ビッグデータにより、この取引にはこの会計処理と提示されたとしても、正しく会計事実を認識する力は必要であり、特に、引当金など見積り項目のような非定型取引では判断が重要となる。このため、会計に関する教育は修正すべき点はあるにしても、必要であると考える。また、会計ソフトの情報を分析して活用することやセキュリティを含め内部統制や職業倫理の教育など情報の信頼性を担保するための教育も重要になると考える。

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