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1647特 集SDGS最前線建物は発泡スチロール製容器でいっぱいだった。市場での取引で使われた魚箱だ。室内に入りきれず、屋外にもあふれるほどだ。 室内では作業者が山積みとなった魚箱を次々とベルトコンベヤーに乗せ、粉砕装置に送り込んでいた。一気に砕かれ、粉々になった発泡スチロール片は隣の部屋に送られ、縦型の装置に投入される。その装置からドロドロに溶けた発泡スチロール(ポリスチレン=PS)がニョロッと出てくる。次々とカットして冷やすと、細かい砂利のようなペレットと呼ばれる状態となる。 そのペレットはプラスチック製品の材料となる。熱して再び溶かし、金型に流すと自由な形状に加工できる。プラスチック製品を製造する射出成形機に投入できるので、メーカーは普通の材料と同じように扱える。 魚箱からプラスチック材料を生産する建物は、社会福祉法人「同愛会リプラス」(横浜市保土ケ谷区)の障害者就労支援施設だ。魚箱からシールなどの異物を取り除く作業を障害者が担う。ここでつくられたペレットは企業がプラスチック材料として購入している。その1社のリコーは、コピー機の用紙トレー(用紙入れ)の材料の一部に採用している。 通常、市場や工場では使い終わった発泡スチロール箱を押し固めてインゴット(ブロック形状の塊)にし、業者に手数料を支払って引き取ってもらう。川崎の中央卸売市場北部市場のように使い終わった場所でのペレット化は珍しいという。 発泡スチロール協会によると、発泡スチロール製品のリサイクル率は90%台と高い。ただし、すべてが国内で再利用されている訳ではない。インゴットのまま中国へ売られ、現地でペレット化されてプラスチック製品となっている割合が多い。 中国が2017年末、廃プラスチックの輸入を制限したため、インゴットを輸出できなくなった。今は東南アジアへ輸出され、現地でペレットに加工してから中国へ売られている。使用済み発泡スチロールでも形状がペレットならプラスチック材料なので、中国も輸入している。市場価格だから資源循環、障害者雇用が継続3 発泡スチロールのリサイクル率を90%台と紹介したが、製品への再利用は54%(2017年調査)。36%はサーマルリサイクルということなので、焼却して発電や熱供給の燃料に使われている。重油など化石燃料の節約にはなるが、燃やしてしまうと再利用できない。燃焼によって二酸化炭素(CO2)も発生するので、地球温暖化も助長する。 中国に続きタイ、ベトナムも廃プラスチックの禁輸を打ち出したため今後、インゴットの輸出は難しくなりそう。国内での発泡スチロールの再利用が迫られるが、サーマルリサイクルの割合を増やして対処したら良いかというと疑問だ。 ペレット化して販売する同愛会リプラスの取組みだと、国内で発泡スチロールを繰り返し資源として利用できる。燃やさないのでCO2の排出も抑えられる。中国の廃プラスチック輸入制限によって日本各地でペットボトルなどの廃プラスチックが行き場を失う事態が起きている。この問題の解決策にもなる。同愛会リプラスの取組みは先進的だが、10年以上前に始めていた。東レ出身で再生プラスチックの事情に詳しい同愛会リプラスの大川正夫顧問が「なぜ、日本の資源を中国に輸出するのか疑問だった。国内で循環させるべきだ」と思い、魚箱のペレット化を始めた。 同愛会リプラスは魚箱由来ペレットを市場価格でリコーなどメーカーへ販売している。仮に障害者の仕事だからとプレミアム価格(割増価格)だったら、メーカーも「社会貢献」枠の予算で購入するだろう。そして景気が悪くなったら社会貢献枠はコスト削減対象となり、ペレットを購入しなくなる。 これは想定だが「障害者の仕事だから」「社会貢献だから」という理由で品質のバラツキに目をつむってメーカーが購入していたら、同愛会リプラスも品質向上の努力を怠るかもしれない。それが原因となり、不景気の時に購入をやめる理由にされるかもしれない。 市場価格だからリコーなどメーカーは継続的に購入できる。同愛会リプラスはペレットを売った利益で継続的に障害者を雇用できる。そして市場価格であるから、国内での資源循環も継続する。同愛会リプラスは本業のリサイクルを通して環境にも、障害者雇用にも継続的に貢献できる。

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