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特 集SDGS最前線2147はじめに1 日本は、2016年11月にパリ協定を批准し、脱炭素化を国際社会に約束した。この批准に基づき、日本政府は「自国が決定する貢献(INDC)」を実施することを決定した。日本のINDCの温室効果ガス削減目標は、2030年度に2013年度と比較して26.0%減少させるもので、安倍晋三首相は「私の内閣は地球温暖化対策を最優先課題とする」との合意に同意した旨の声明を発表した1。 批准とほぼ同時期、政府は「持続可能な開発目標(SDGs)」の政策を推進することを決定した。安倍首相は、すべての閣僚で構成する持続可能な開発目標推進本部を設けて「政府が国内政策と国際協力によって持続可能な社会に向けて国際社会をリードする」と表明した2。 また、2012年7月の固定価格買取制度の施行から、自然エネルギーが急速に増加している。2018年3月までに、自然エネルギーの設備容量は8GWから40GWに増加した3。なお、本報告で述べる自然エネルギーとは、固定価格買取制度の対象となっている再生可能エネルギーを指す。 しかし、安倍首相の表明した方針や自然エネルギーの普及状況にもかかわらず、持続可能な社会を追求する専門家やNGO等から、政府のSDGsに対する意欲は疑われている。その理由としては、次の3点がある。 第一に、日本の温室効果ガス削減目標は誇張されていると、専門家やNGOから批判されている。例えば、Climate Action Network internationalは「大胆な約束をするのではなく、わずかな手直しをしてきただけ」との書簡を安倍首相に送った4。 第二に、政府はSDGsに反する行動を取っている。例えば、日本は2018年6月のカナダ・シャルルポワG7サミットにおいて「海洋プラスチック憲章」を採択しなかった5。憲章を経済成長に対する脅威と見なしたからである。 第三に、依然として化石燃料に大きく依存しており、経済産業省は原子力発電所の再稼働を促進している。特に、石炭火力発電所が増加しつつある。2014年度の化石燃料の輸入総額は27.6兆円(2,501億米ドル)であり、化石燃料からの温室効果ガス排出量は日本の総排出量の9割を占めている。 以上のように、政府は、地球温暖化対策やSDGsを重要課題と掲げるものの、実際には矛盾する政策も推進している。 はたして、こうした矛盾を打開し、日本がパリ協定とSDGsを実現するためのカギは何か。本報告は、日本が自然エネルギーをカギとしてパリ協定とSDGsを達成にするに際して、克服すべき4つの障壁に直面しているとの仮説を検証し、これらの障壁を克服する要自然エネルギーが日本でのパリ協定とSDGs実現のカギとなる田中 信一郎TANAKA Shinichiroプロフィール一般社団法人地域政策デザインオフィス代表理事。博士(政治学)。内閣官房国家戦略室上席政策調査員、長野県環境部環境エネルギー課企画幹等を経て現職。主な著書に『信州はエネルギーシフトする~環境先進国・ドイツをめざす長野県』(築地書館)等がある。特 集SDGs最前線1 「パリ協定」の受諾に関する内閣総理大臣の談話(2016年11月8日)2 持続可能な開発目標推進本部会合(2016年12月22日)3 経済産業省ホームページ(https://www.t-portal.go.jp/PublicInfoSummary)4 Letter to Prime Minister Shinzo Abe-CAN responds to Japan's draft INDC(2015年4月30日)5 The Charlevoix G7 Summit Communique 27(2018年7月9日)千葉商科大学特別客員准教授(サイエンスアカデミー)

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