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特 集SDGS最前線2247点を説明することを目的とする。仮説となる4つの障壁とは、以下の通りである。 第一の仮説は、政治的な障壁である。政府と経済界の首脳は、原子力と石炭が今後の日本においても引き続き不可欠なエネルギー源であると考えている。 第二の仮説は、技術的な障壁である。送電システムに関する政策や設備運用は、従来の集中型電源を優先している。 第三の仮説は、法律的な障壁である。土地利用規制や環境影響評価制度が不十分なため、一部の自然エネルギー事業において、自治体に対して地域住民から反対意見が示されている。 第四の仮説は、社会的な障壁である。持続可能な社会を推進するため、自然エネルギーの経済的便益及びSDGsが重要になるとの認識が、十分に普及していない。 ちなみに、この分野の先行研究は、十分でない。日本の気候変動と政治に関する従来の研究は、気候変動に関する国際交渉に関するプロセスや、温室効果ガス削減に向けた政府や自治体の政策についてのものが主であった。持続可能な社会に向けた障壁に対する多面的な考察は、これからの課題となっている。 なお、本報告は、2018年10月マレーシア・クチンにおける国際影響評価学会(IAIA)での筆者と平田仁子氏の共同報告に基づき、筆者の責任において執筆したものである。筆者は、内閣官房や長野県においてエネルギー政策に携わった実務経験を有する。平田氏は、気候ネットワーク理事として20年間にわたり日本政府による気候変動交渉を観察してきた。両者の実務経験を踏まえた見解を示すことで、今後の研究の手がかりとすることが本報告の目的である。政治的な障壁の検証2 政治的な仮説は、パリ協定とSDGsの実現に決定的な影響力を有している政府と経済界の首脳が、石炭と原子力が今後の日本においても引き続き不可欠なエネルギー源と考えている、そのことが障壁になっているというものである。そのように考えられる根拠として、次の三つがある。 障壁になっていると考えられる第一の根拠は、安倍首相の発言である。首相は「世界の経済成長と地球温暖化対策を組み合わせるための鍵は高効率石炭火力発電所であり、日本政府は石炭火力発電所を世界に広めることになる」と述べた6。「原子力発電所は、日本にとって絶対に必要不可欠であると同時に、原子力発電所への依存度を減らすべきである」とも述べている7。 経済界の首脳も、石炭火力発電所や原子力発電所を強調している。日本経済団体連合会の榊原貞之会長(当時)は、環境大臣に面会したときに「日本は石炭火力発電所を使用し、それらを普及させることによって世界に貢献すべきである」と主張した8。「政府が原子力発電所を政府の新戦略エネルギー計画の中心にするべきであり、原子力発電所の新たな建設を検討すべきである」とも述べている9。 第二の根拠は、政府のエネルギー基本計画である。この計画は、政府のエネルギー政策に関する最上位の計画であり、エネルギー政策基本法に基づき、3年ごとに閣議決定される。 パリ協定批准の後、2018年7月に閣議決定されたエネルギー基本計画は、日本が将来も重要なベースロード電源として石炭火力発電所を使用し続けることを決定した10。基本計画は、低効率の石炭火力発電所を段階的に高効率の石炭火力発電所に置き換えること(リプレース)を示している。あわせて、石炭火力発電所のリプレースを促進するため、環境影響評価の期間を3年から1年に短縮することも、政府は示している。 また、基本計画は、原子力発電所も重要なベースロード電源として位置付けている。基本計画は、福島原発事故から学んだ教訓を踏まえ、原子力発電所への依存度を減らすべきだと示す一方、将来も原子力発電所を使用し続け、その必要性について国民の理解を求める必要があると示している。 第三の根拠は、石炭と原子力を最重視する過去のエネルギー政策決定に携わった官僚や専門家が、政策決定で強い影響力を有する政府高官に就いていることである。安倍首相の政策決定に強い影響力を有している筆頭の首相秘書官である今井尚哉氏は、資源エネルギー庁次長のとき、民主党政権の脱原発政策に抵抗した。安倍首相の秘書官を経て副大臣級の経済産業審議6 首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0605speech.html)7 衆議院予算委員会(2018年2月6日)8 日本経済団体連合会ニュースレター(2018年1月25日)9 日本経済新聞(2018年9月6日)10 経済産業省ホームページ(http://www.meti.go.jp/english/press/2018/0703_002.html)

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