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特 集SDGS最前線2347官(当時)となった柳瀬唯夫氏は、原子力政策課長として2005年の「原子力立国計画」の策定を主導した。この計画は、原子力重視のエネルギー政策をさらに強化し、原子力を主たるエネルギー源にするためのものであった。 また、エネルギー基本計画を審議する資源エネルギー調査会では、石炭火力発電と原子力発電を支持する専門家が多数を占めている。民主党政権では、それらを支持する専門家と支持しない専門家は拮抗していたが、2012年末に安倍首相が就任した後、それらを支持しない専門家は調査会から更迭された。その結果、エネルギー基本計画の実質的な審議を担う同調査会の基本政策部会は、それらを支持する委員が14~15名、支持しない専門家が3~4名との構成になった11。 これらの政府の方針や人事等は、SDGsに反すると考えられる。なぜならば、石炭火力発電所は主要な温室効果ガス排出源だからである。原子力発電所についても、2011年の福島原発事故はまだ解決しておらず、避難者や生活再建の途中の被害者が多くいる。政府がそれらを強く考慮しているとは、以上の言動からは考えにくい。 一方、興味深いことに、政府・経済界の首脳においても、自然エネルギーの促進を否定する者はいない。安倍首相は、自然エネルギーについて促進が政府の一貫した政策であると述べている12。エネルギー基本計画は、重要な国産の低炭素エネルギーとして、自然エネルギーを重視している。 さらに、自然エネルギーに関して、経済界から注目すべき動きが生じている。2018年7月、パリ協定の実現を目的として「Japan Climate Initiative」が設立された13。これは、NTTドコモ、住友化学、ソニー、日立、イオン、味の素、ソフトバンク、富士通、富士フイルム、リコーなどの著名企業を含む109の民間企業、18の地方自治体および27の組織で構成されている。彼らは、自然エネルギーの活用を共通して強調している。技術的な障壁の検証3 技術的な仮説は、エネルギーシステムの変革に際して、技術面で決定的に重要となる送電システムに関する政策や設備運用が、従来の集中型電源を優先し、そのことが障壁になっているというものである。そのように考えられる根拠として、次の二つがある。 第一の根拠は、発電と送電の不完全な分離である。これまで発送電を一体運用していた10の一般電気事業者は、発電部門、送電部門、配電部門を所有してきた。各社は、2015年の電気事業法の改正に基づき、2020年までの各部門の分離を予定している14。 日本の発送電分離の規定は、海外での一般的な発送電分離とは異なる。海外での一般的な発送電分離は、送電会社と発電会社、配電会社との資本関係を切り離している。だが、日本の発送電分離は、持株会社を置き、3部門の会社を所有することを禁じていないからである。もし、送電会社が送電システムの使用料を高く設定すれば、グループの発電会社は他の発電会社と等しく高い使用料を支払うものの、持株会社を頂点とするグループ全体で見れば、その使用料は子会社間での収益移転に過ぎない。それは、結果として一般電気事業者の発電会社を優遇し、他の発電会社を不利な競争条件に置くことになる。 第二の根拠は、自然エネルギーに対する送電システムの接続制限である。当初の固定価格買取制度は、自然エネルギーの優先接続を定めていたが、資源エネルギー庁は送電システムを有する一般電気事業者に広範な接続制限を認め、法を骨抜きにしてしまった。これは、いわゆる九電ショックと呼ばれる15。 さらに、資源エネルギー庁は2016年、自然エネルギーの優先接続の法規定を廃止し、申込先着順に変更した。その結果、送電システムの空容量のほとんどが新設を予定している石炭火力発電所によって占められた。どの発電所を先着と認めるか、その裁量は一般電気事業者に認められており、集中型電源が選ばれてしまったのである。 これらの政策や設備運用は、SDGsに反すると考えられる。集中型電源の多くが石炭火力発電所や原子力発電所等の環境破壊を伴う電源だからである。送電システムという社会インフラが、すべてのステークホルダーに公平に開かれてなく、持続可能性を優先していないことも問題である。 一方、政府はこのように集中型電源を優遇しつつも、11 経済産業省ホームページ(http://www.enecho.meti.go.jp/en/committee/council/basic_policy_subcommittee/)12 衆議院予算委員会(2018年2月14日)13 気候変動イニシアティブホームページ(https://www.japanclimate.org/)14 経済産業省ホームページ(http://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/denryokugaskaikaku/souhaidenbunshaka.html)15 環境ビジネスオンラインホームページ(https://www.kankyo-business.jp/dictionary/009004.php)

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