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特 集SDGS最前線2447自然エネルギーの供給を増やす方向で、送電システムの運用を改善しつつある。資源エネルギー庁は、コネクトアンドマネージという運用方法を検討しており、これは送電システムの空容量が発生したとき、自然エネルギーの一時的接続を許可するルールである16。 さらに、太陽光発電システムの低価格化が、この問題を緩和させつつある。太陽光発電システムの低価格化が急速に進行し、電気を購入するよりも、太陽光発電システムを設置して自ら使用する方が安くなると、近い将来、確実な状況になっている。これはグリッドパリティと呼ばれる状況で、その以後は、送電網に負荷をかけない太陽光発電システムが徐々に普及していくと考えられている17。法的な障壁の検証4 法的な仮説は、土地利用規制や環境影響評価制度が不十分なため、一部の自然エネルギー事業において、自治体に対して地域住民から反対意見が示され、そのことが障壁になっているというものである。そのように考えられる根拠として、次の二つがある。 第一の根拠は、日本における土地利用規制の歴史的な曖昧さである。国や自治体は、過去から現在まで一貫して土地開発を求めてきている。そのため、都市計画法や関連する法令では、過密な都市部に超高層マンションを建設することや、郊外でのゴルフコースの過剰な建設することを、住民の反対があっても、自治体がそれらを規制することは容易でない。そのことが、森林を造成して建設されるメガソーラー等についても、規制が難しいことにつながっている。 また、環境影響評価法は、従来の開発プロジェクトのほとんどにかけられていない。なぜならば、その法が1997年に施行されたときには、多くの大規模開発プロジェクトは終了していたからである。加えて、法の対象となる開発プロジェクトは、限定されてきた。例えば、風力発電所は10,000kWを超える発電サイトが対象となる一方、石炭火力発電所は150,000kWを超えなければ対象とならない。もちろん、都道府県等の条例で環境影響評価を一定の開発行為に対して義務づけているケースもあるが、メガソーラー等の自然エネルギー事業が対象となるかどうか、自治体によって異なる。明らかに環境影響のより大きい開発事業が対象となっていない場合、メガソーラー等の自然エネルギー事業のみを環境影響評価の義務づけ対象に加えることには、比較衡量の観点から難しいこともある。 第二の根拠は、各地の自然エネルギー事業の開発をめぐる住民紛争である。2016年の環境エネルギー政策研究所の調査18によると、2012年から2015年にかけて50件の太陽光発電事業で、住民との紛争が発生した。紛争の主な原因は、景観保全、防災、生活環境の保護であった。自然エネルギー事業の合意形成手続の整備について、国や自治体は後手に回っている。 この問題は、各地で自然エネルギーに対する反発を高めている。エネルギー総合工学研究所の調査19によると、自然エネルギーに対する人々の期待は2011年の80%から2012年には60%後半まで減少し、その後は2017年までほぼ横ばいのままであった。固定価格買取制度が施行され、自然エネルギーが普及したにもかかわらず、人々の評価は比例して増加していない。それには、少なからず各地の住民紛争が影響していると考えられる。 これらの規制や制度の不十分さは、SDGsに反すると考えられる。現在の法令では、自然エネルギーの増加が、生活環境や自然環境を脅かすことにつながりかねないからである。こうした状況での自然エネルギーは、必ずしも持続可能でない。それどころか、持続可能な社会づくりに対する人々の支持を失わせるおそれすらある。 一方、国や自治体は、遅ればせながら問題についての対策を講じつつある。資源エネルギー庁は、固定価格買取制度での情報開示と問題ある事業の審査を強化した。これにより、自治体が事業の予定や事業者を知ることができ、法律や条例に違反する事業の買取認定が取り消されることになった。また、環境省は、環境影響評価法の強化について検討を始めている20。長野県等の一部の都道府県では、環境影響評価条例の対象を自然エネルギー事業に拡大している。長野県木曽町のように、事業に対して情報公開や説明会等の手続を規定した自治体もある。 ただし、国や自治体の対策が自然エネルギーに対する評価を回復させるか、不透明である。普及スピードに対し、対策の遅れは否めないからである。16 経済産業省ホームページ(http://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/shuryokudengen.html)17 環境ビジネスオンラインホームページ(https://www.kankyo-business.jp/dictionary/009977.php)18 環境エネルギー政策研究所「メガソーラー開発に伴うトラブル事例と制度的対応策について」(2016年)19 エネルギー総合工学研究所ホームページ(https://www.iae.or.jp/report/list/general/questionnaire-survey/)20 環境省ホームページ(https://www.env.go.jp/press/105597.html)

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