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147一般に生産手段が私有化され、自由な市場で生産者と消費者が様々な財貨・サービスを交換する経済システムのことを資本主義と呼んでいる。その資本主義は一つではなく様々なタイプが存在する。経済システムを支える消費者行動、企業行動はそれぞれの国の歴史、文化、宗教、さらにその国の置かれた地理的環境(緯度の高低など)などの経済外要因に大きく影響を受けるからである。日本型、アメリカ型、英国型、ドイツ型、中国型など国の数と同じぐらい多様な資本主義が形成されている。第二次世界大戦後、パクス・アメリカーナ(アメリカ支配の平和)の時代が始まった。圧倒的な軍事力、経済力で超大国にのし上がったアメリカが覇権を握る平和である。この過程でアメリカ型資本主義が世界経済を席巻し、資本主義といえばアメリカ型を意味するようになった。アメリカ型資本主義は、複雑な歴史、特別の文化、宗教に影響されず教科書通りの資本主義経済として出発した。複雑な消費者行動、企業行動の中から数式化できる部分だけを取り出し独特の経済学を創り上げた。新古典派経済学である。新古典派経済学は、経済活動から数式化できないモラルの部分を排除し、利益至上主義の経済学として開花した。企業は株主のもの、短期的利益追求、市場万能主義に要約されるアメリカ型資本主義は世界経済の発展に大きく貢献したが、半面、地球の限界(環境悪化、資源枯渇など)、労働環境の悪化、所得格差の拡大、中産階級の没落、法令違反の頻発など負の遺産を噴出させ行き詰まった。トランプ米大統領の登場は、アメリカ型資本主義の破綻が生み出した歴史的産物といえよう。あらためて歴史を振り返ると、冒頭で指摘したように、世界には多様な資本主義が存在している。アメリカ型に圧倒され隠れていただけだ。フランスの経済学者、トマス・ピケティは自著「21世紀の資本」の中で、ドイツには「ライン型資本主義」が形成されていたと言及している。企業は株主だけのものではなく、労働組合、消費者団体、地方政府など利害関係者のものだとする経営モデルだ。今流の言い方では「ステークホルダーモデル」である。日本には、戦前からバブルが弾ける1990年以前までは、「論語と算盤」の著者、渋沢栄一が提唱した「経営とモラルのバランス」を目指した経営が展開され、日本型労使協調モデルの経営が息づいていた。この数年、世界の主要企業がESG投資(環境、社会、ガバナンス重視の投資)や国連の提唱するSDGs(持続可能な開発目標)投資に意欲的に取り組んでいるのは、破綻したアメリカ型に代る新しい経済システムへの挑戦である。ICT(情報通信技術)革命の進展によって農家と様々な異業種企業が連携し、高齢化と低生産性に喘いでいた農業部門を成長産業として復活させようとする試みが各地で進んでいる。インターネットやスマホなどを活用したシェアリングエコノミー(共有型経済)が急速に普及し始めた。エネルギー分野でも一極集中型の原子力や石炭火力に代って、地域分散型の太陽光や風力などの再生可能エネルギーが存在感を増してきた。分散型エネルギーの活用は地域住民の結束と協力が前提になる。地球限界時代の企業は、その存在が世のため人のためになることを説明できなければ存続が認められなくなるだろう。これからの企業は公共財的性格がより強く求められるようになる。利益至上主義のアメリカ型より経済成長率は落ちても、経済活動に参加する様々なステークホルダーが互いに結びつき、助け合い、経済成長の成果を分かち合う「ウイン、ウインの関係」を支える新しい経済モデルが生まれようとしている。そのモデルをあえて名付ければ「きずな資本主義」ということになるだろう。きずな資本主義への道~ウイン・ウインの経済システムが目指すもの~巻頭言プロフィール日本経済新聞・論説副主幹などを経て、千葉商科大学政策情報学部教授。現在名誉教授。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日経出版社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)など多数。専門は経済学。千葉商科大学名誉教授三橋 規宏MITSUHASHI Tadahiro

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