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3747特 集SDGS最前線SDGsの普及啓発3SDGsについて概況を伝えるとともに、その精神やポイントとして伝えていることがいくつかある。一つは、前文でも明記されている「誰一人取り残さない」という点である。前述したように市民社会でも大事な要素として働きかけを行ってきた。貧困や格差に悩まされたり、脆弱な地域、劣悪な状態で暮らしているなど、社会の中で追いやられた人たちへまず目を向けることを目指している。これまで国連機関や民間事業者による政策や資金が及ばないような地域において国際協力のNGOが草の根の活動を続けてきた知見が生かされることが期待されている。次の点は、SDGsの重要なキーワードとしての5つのP「People(人間)」「Planet(地球)」「Prosperity(豊かさ)」「Peace(平和)」「Partnership(パートナーシップ)」であり、SDGsを底で支える価値観となっている。これは前述の2014年に発表された事務総長統合報告書に書かれた6つの基本要素がベースになっている。そして、正式名称にも添えられている、「私たちの世界を変革する(Transforming Our World)」という言葉である。現世は、社会・経済システムの文明史的変革期であり、サステナビリティ革命が必要だという投げかけであり、大量生産・大量消費のワンウェイの経済社会から脱却し、循環型の社会への転換への移行を呼びかけている。NGOの多くが従来から訴えている“物質的欲求から質的欲求”や、“私有から共有”(シェアリングエコノミー)へなどのメッセージに通じることを主流化させる機運を表していると言えるだろう。既存のあり方、考え方を壊し、それぞれのセクターが持続可能な社会のために何ができるか、真剣に考え・創造する時期をSDGs時代と呼ぶことができるだろう。これらを包括するように、SDGsの前文にも以下のように記されている。「すべての国及びすべてのステークホルダーは、協同的なパートナーシップの下、この計画を実行する。我々は、人類を貧困の恐怖及び欠乏の専制から解き放ち、地球を癒やし安全にすることを決意している。我々は、世界を持続的かつ強靱(レジリエント)な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることに決意している。我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う。」SDGsができるまでの背景4SDGsの前身であるMDGsの中の貧困に関するターゲット(極度の貧困人口の割合を1990年比で半減)は2010年に達成、2015年には1/3になったが、今なお約8億人(世界人口の9人に1人)が栄養不良状態であり、5歳未満児死亡率は1/3削減達成までは至らず、妊産婦死亡率は1/4削減達成までは至っていない。環境の持続可能性については、進展があるものの、CO2排出増大、森林や水産資源の減少等、課題を多く残していることから、SDGsには多くの環境関連目標が挙げられた。地球温暖化の影響で干ばつが各地で発生し、水不足や農作物の収穫量低下が食糧不足、そして飢餓を生み出す要因になっている。2010−2012年のアフリカにおける干ばつでは、1200万人以上が食料不足に陥った(ソマリア370万人、ケニア350万人、エチオピア460万人など)。農地・牧草地、水を求め、大規模な人・家畜の移動が発生し、限られた資源をめぐる紛争の原因になるのである。シリアの内戦もその背景には温暖化の影響があるというレポートもある。人命を救っても戦争がまた犠牲者を出し、食糧増産しても自然災害で農業に打撃を与え、健康を守っても異常気象で健康被害が起こるというような負の連鎖が止まらない状況の中、SDGsは考案された。SDGsに掲げられている現社会の課題は複雑に関連しているため、市民社会が持つ知見やネットワークを駆使して、縦割り行政や企業の利害関係などの壁を越えて課題に対応することが期待されており、またそうすることでSDGs達成に近づける意義があるだろう。世界に先駆けて少子高齢化や過疎化が進む日本は、世界各国、特に経済発展途上国がこれから経験する課題が山積している「課題先進国」である。社会にある課題を早く明確に抽出し、解決に向けて政策提案したり、具体的な行動ができるNGOの存在が必要だ。また、公害克服の経験と同様に、日本の経験は国際協力にも生かせるだろう。SDGsでは気候変動、循環型社会、生物多様性についてもそれぞれのゴール設定があるが、他の課題と同様に、既存の条約や目標を尊重、推奨したかたちで取り組むことが求められている。特に環境問題は、温暖化、生態系の損失によって社会・経済インフラに悪影響を及ぼし、貧困、飢餓、紛争など別の問題を引き起こすことから、すべての問題の基盤として取り組む必要がある。

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