view&vision47
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4347特 集SDGS最前線害に係る複数の次元、すなわち、災害レベルのパラメータ(震度、洪水域、土砂崩れ発生地域等)と、物理的被害規模(インフラ、ライフライン、発電所、建物等)、メディア(新聞、テレビ、SNS)、社会経済的インデクス(人口、公共衛生、教育)、産業・企業活動(工場、物流、サプライチェーン)といった各次元の断片的な分析を、多層的可視化技術(Multi-layered Visualization)(図5)により、異常気象や災害に脆弱な地域・地区の特定や、レジリエントな社会構築に必要な人的資源・予算配分などの政策立案を支援する。さらに、これら現象が社会全体へ与える影響の「意味」を社会全体の知識として直観的・集約的に記憶し、注目する次元(文脈)を意味的な写像によって表現・分析することで、環境変化・災害現象を次の世代へ伝えるための集合的な記憶として残す試みである。図5 5D World Map Systemにおける多元的可視化(Multi-dimensional Visualization):災害レベル、物理的被害規模、メディア、社会経済的インデクス、産業活動といった複数の次元の組み合わせと、国・地域レベル、県・州レベル、市区町村レベルでのスケールの切り替えにより、災害の「意味」と社会への影響を可視化(Visualization+Actuation)本共同研究プロジェクトでは、具体的には次の3つのモデルケースを対象として、UN-ESCAP IDD、EDD、および、タイ・タマサート大学、インドネシア・スラバヤ工科大学(EEPIS)、タイ・チュラロンコン大学、米・ワシントン大学の各研究グループ(アジア太平洋諸国5機関)と共同で研究開発している。ネパールを対象とした災害リスク分析(地震・洪水・地滑り)をモデルケース1として、無人センサとクラウドソーシングによって災害を観測し、多層的可視化や比較分析・差分計算を用いて分析し、早期警告情報や迅速な対処方法、二次災害防止に関連する情報を対象地域・対象者・緊急性に応じて自動的・選択的に配信する機能を実現している。第二に、インドネシア、タイ北部、ペルーの森林伐採・森林火災をモデルケース2として、衛星画像のマルチスペクトル意味解析によるモニタリングと被害状況検出実験を行っている。第三に、環太平洋地域における海洋ゴミとその珊瑚白化現象をモデルケース3として、海水環境変化の自動監視(検知)・分析・警告・対処行動指針配信を実現している。データサイエンスの人類社会への貢献3翻って、情報科学とは、文章や数値など多様な形態で存在する多種多様な情報源から「情報」「知識」を選択し、効率よく利用するためにコンピュータを利用して人間の情報処理能力を強化・支援する試みである10。情報がコンピュータに記憶・計算可能な内部表現(記号列)に変換・形式化・蓄積されたものをデータと呼ぶ。データからどのような情報を抽出するか、また、情報からどのような知識を抽出するかは、利用者の意図・判断によって取捨選択される。したがって、事象や現象を客観的に記述した静的なものである「データ」から、ユーザの意図によって動的に意味が変化する「情報」を抽出し、さらに人間の知識構造を変化させるような「知識」を発見することが情報科学およびデータサイエンスの目的であるといえる。現在の人工知能(AI)活用のブームが「第三の波」と呼ばれているように、AIを含むデータサイエンスの歴史は1940年代に遡る。社会学的・政策科学的観点から情報の生産・配布・収集・利用の過程を調査・統計分析により解明する研究もまた、計算機科学と通信技術の発達の歴史と共に1960年代より盛んになり、1970年代にはプロトコル解析やアンケート調査などの行動科学の手法が研究されるようになった。1980年代には、これらの研究から得られた知見を基に数理的なモデルを設定し、目的とする知識形態に従った有用な知識を抽出する技術が、AIや認知科学の分野で発展する。これらのアプローチは「知識工学アプローチ」「知識発見(Knowledge Discovery)」「知識ベース(Knowledge Base)」と呼ばれ、データ工学、計算理論、統計学、心理学、医学、経営学、社会分析10 徳永健伸『情報検索と言語処理』(言語と計算;5)、東京大学出版会、1999年。

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