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4447特 集SDGS最前線など分野横断的・学際的な研究分野となった。一方、データからの情報抽出、特に、人間による解釈・抽象化を介さずに可能な限り元の形でデータを扱い、そこから自動的に情報を抽出しようとするアプローチは、「情報検索的アプローチ」または「データマイニング」と呼ばれてきた10 11 12。このアプローチでは、抽出・検索された情報の解釈はユーザに委ねられるため、ユーザに必要な情報を効率よく検索・提示できる方式、大規模なデータ群から予想外のパターンを発見するためのアルゴリズム、ユーザの役に立つ検索システムの設計・構築に主な関心が寄せられてきた。情報科学、とりわけデータ工学の分野において、情報検索とは、広義には「ユーザの持つ問題を解決できる情報をみつけだすこと」、狭義には「ユーザの検索質問(クエリ)に適合するメディアをメディア集合の中からみつけだすこと」と定義される10。メディアはテキストだけでなく、音声・画像・動画などのマルチメディア情報を含む。現在ではこれら二つのアプローチは総合的な「データサイエンス」という領域に包括されている。特に、人文社会科学のような暗黙知的な専門知識が重要な要素となっている研究分野において、有用な情報・知識を獲得するためには、両者を不可分な関係で併用することが重要と考えられる。かつては、知識工学アプローチにおいては、情報をコンピュータによる推論に直接利用できる程度まで形式化する必要があり、人間によって情報を体系化し、知識ベースを構築するにはコストが高いという問題があり、一方で、情報検索アプローチにおいても、適切な仮説を事前に持たずに適当にパターンを探索するのみでは、人間の状況判断や意思決定に有用な知識を発見・獲得するには至らないといった課題があった。しかし、2000年代に入り、コンピュータの計算機能の高速化、デバイス、ストレージ、通信技術の進化が進み、CPS・IoT・AI・ビッグデータ分析技術が発展したことにより、所謂「記号接地問題」は解消されつつある。2006年にディープラーニング(深層学習)が発明され、2009年にはジム・グレイが「第4のパラダイム」を提唱している。以降、人間が設定した既知の規則に基づくプログラミングではなく、データを出発点として規則を発見するために高性能コンピュータとプログラムを駆使する「データ集約型科学的発見」が提唱されている。国際政治学におけるデータサイエンス4伝統的な国際政治学において、帰納的定量分析として位置づけられる統計的手法は冷戦時代の開始とともに1950~1960年代にかけて盛んに行われた。代表的研究として軍事的相互依存に関するクラスター分析13、国際システム内の地域特性についての因子分析14、戦争とパワー分布に関する回帰分析15、戦争の確率統計モデル分析16、逐次的回帰分析によるリチャードソン・モデル(軍拡競争モデル)の再検討17などがある。これら統計的手法のうち、新聞記事・演説・交換文書などの文字・音声データ(以下、「ドキュメント」という)を定量的に捉え、国際コミュニケーション・対外イメージ・メッセージ・シンボル・世論などを単語の出現頻度や言葉・概念の間の関係・構造について定量的に分析・理解する手法として「内容分析(Content Analysis)」「認知構造図(Cognitive Map)」が挙げられる。内容分析および認知構造図は共に、60年代~70年代にかけて国際関係論・国際政治学の分野に導入され、公表された文書の事後的分析を通じて政策決定者の認知、態度、あるいは対外イメージなどの分析に応用されてきた。特に、世論や政党の分析には、新聞や機関紙が対象ドキュメントとして用いられ、意見調査を行うことが困難な各国首脳の認知分析には、演説や声明、交換文書、書簡などが対象ドキュメントとして用いられてきた。内容分析は、ドキュメント群中の単語またはコード化された文の出現頻度を計測し、各単語・コードと各ドキュメントとの相関度を計算し、多変量解析を行う11 福田剛志、森本康彦、徳山豪『データマイニング』(データサイエンス・シリーズ;3)共立出版、2001年。12 増永良文『データベース入門』サイエンス社、2006年。13 Paul Smoker,“Trade Defense and the Richardson Theory of Arms Races:A Seven Nations Study,”Journal of Peace Research, Vol.2, No.2, 1965.14 Bruce M. Russett, International Regions and the International Systems, 1967.15 David Singer et al.,“Capability Distribution, Uncertainty, and Major Power War, 1820-1995”,Bruce M. Russett ed., Peace, War and Numbers, 1972.16 山本吉宣「混沌の中の法則性   戦争の確率論的なモデル」、山本吉宣・薬師寺泰蔵・山影進編『国際関係理論の新展開』、東京大学出版会、1984年。17 薬師寺泰蔵「政治学における近代的モデリング   リチャードソン・モデルを中心として   」、山本吉宣・薬師寺泰蔵・山影進編『国際関係理論の新展開』、東京大学出版会、1984年。

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