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70472.研究者として 台湾では、社会的企業が社会に大きな影響を与えている。台湾では、1990年代の後半からビジネスを通じて社会的課題の解決を図る非営利組織が台頭し、輔仁大學は早くからそういった組織を含めた社会的企業の重要性に注目していた。2008年には、社会的企業研究センター(社會企業研究中心)を設立し、台湾での社会的企業の起業と普及を推進してきた。私を訪問研究員として受け入れてくれたのが、そのセンターを設立したメンバーでもある呉宗昇(Chung-Shen Wu)副教授である(写真2真ん中)。呉副教授は、社会学を専門とながらも、ビジネスを通じた社会的課題の解決に関心のある研究者である。輔仁大學は管理學院の課程の一つとして2012年に社会人向けの社会的企業の修士課程(社會企業碩士在職學位學程)を設置しており、呉副教授もこの課程で講義を行なっている。 呉副教授との共同研究は、二人の違和感から始まった。台湾に行った当初、日本と台湾の社会的企業について話している中で、どういった組織を社会的企業というのかに関しての食い違いがあった。つまり、日本と台湾の社会的企業の定義自体が異なっていたのであった。そのため、まずはお互いの社会的企業の定義と社会での普及プロセスを理解し合うための研究会を開催することにした。 研究会は、主に彼の大学院のゼミ生を交えたものとなり、多い時では10名程度の参加者がいた。研究会の形式としては、日本と台湾における社会的企業のこれまでと現状について、ゼミ生に講義を行う形で情報交換をした。台湾の大学院生は、日本に関心がある学生が多く、いろいろな質問が寄せられた。なお、この共同研究の成果は、2018年9月に早稲田大学で開催されたJapan Forum of Business and Societyの8th Annual Conferenceで報告した。 近年、台湾では倫理的消費が広がりつつある。私は定期的に台湾を訪れ、その度にスーパーマーケットに行って商品の品揃えなどを見てきたが、2017年に品揃えの大きな変化に気づいた。その大きな変化とは、有機食品の品揃えが大幅に増えたことであった(写真3)。2016年に台湾を訪れた時は、有機食品のみを集めた売り場などは全く存在していなかったことを思い出すと、それが食品の調達という面を考えても大きな変化であることを認識した。写真3 家樂福(Carrfour)の有機野菜売り場 その変化を滞在していた呉副教授に話したところ、社会学の見地から有機農業を研究している王驥懋(Chi-Mao Wang)助理教授(写真2左)をご紹介いただいた。王助理教授には、台湾の有機野菜をはじめとする有機食品の現状を教えていただいた。それだけでなく、有機野菜を認証している機関にインタビュー調査を行うのが良いと、友人の陳玠廷博士(財團法人農業科技研究所研究員)をご紹介いただいた。 陳博士からは有機野菜のシェアが第1位の団体と台湾で初めて認証ラベルを作った団体それぞれのリーダーをご紹介いただき、インタビュー調査を実施した(写真4)。これをきっかけに王助理教授と台湾の有機野菜の普及についての共同研究を始めた。研究を実施するにあたり、公益財団法人日本台湾交流協会の日台知的交流事業の2018年度共同研究助成事業の支援を運良く獲得できた。王助理教授とは、台湾における有機食品の普及に大きく寄与した団体の活動などについて調査を行った。その成果は、社会的企業の共同研究と同様の学会で報告した。写真4 インタビュー調査後〔中央がTOAF(Tse-Xing Organic Agriculture Fundation;財團法人慈心有機農業發展基金會)の蘇慕容CEO(執行長)とその左が中華MOA(Mokichi Okada Association)協進會の月足吉伸代表、一番左が珍博士〕

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