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7547公平な金融システムの実現に向けて〜Fintechプロジェクトの挑戦〜研究プロジェクトリサーチ&レビュー千葉商科大学政策情報学部 教授研究プロジェクト代表大矢野 潤はじめに1989年、日本のコンピュータネットワークは全米科学財団ネットワーク(NSFNET)とIP接続を開始した。日本におけるインターネットの始まりである。以来、インターネットは新聞やTV、百科事典、デパート、そして友人関係までも電子化し、その枠組みに取り込むことで社会基盤としての地位を確立してきた。しかし、私達の日常生活に欠かせないものであるにもかかわらず、これまで電子化できていないものがあった。意外にも、それは「お金(通貨)」である。電子化されたお金、すなわち「仮想通貨」とはネットワーク上で用いられる流通性や汎用性を持つ電子的な決済手段の一つである。なお、2018年12月に金融庁が公表した“「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書”では、法令上の呼称を「仮想通貨」から「暗号資産」に変更することが提案されたが、本稿においては引き続き仮想通貨という呼称を用いることにする。日本の法定通貨である一万円札には一万円の価値があることを「国」が保証しているが、インターネットのように特定の国に属さない環境ではそのようなオーソリティを仮定しない決済手段が望まれる。もちろん、一般の電子商取引に仮想通貨が絶対に必要ということではない。例えば、信販会社のクレジットカードを用いてショッピングサイトで商品を購入する場合は、決済に至るまでの手続きをコーディングし、最終的なお金の移動をネットワーク外部の信販会社で行えばよい。ただし、この方法は送金に用いることができないこと、支払いが個人の信用情報に紐づけされてしまうなど、現金のもつ利便性、匿名性等の性質が失われてしまう。インターネット上でのサービスを実現する場合、すべてのパーツから作り直すよりも既存のビジネスを連携させて新たな仕組みを構築する方が自然であろう。そして、ビジネス間の支払いは、より一般的で制約が少ない方法を検討したい。しかし、仮想通貨は安全な支払いを実現しているが、その支払いがビジネスの意図を反映しているかということは一切保証しない。我々は、一般のビジネス設計者が利用可能なビジネスロジックのテンプレートが必要であると考え、千葉商科大学経済研究所プロジェクト「安全で公平な金融システムの実現に資するFintechフレームワークの提案」(以下、単にFintechプロジェクト)を発足させた。期間は2年間、スタッフは4名の小さなプロジェクトである。目標が壮大すぎることは承知しているが、商科大学に勤務する情報・数理科学を専門とする研究者として、この問題を避けることができないという思いからの挑戦である。以下、仮想通貨、支払いへの攻撃、ビジネスロジックの統合について簡単に説明し、最後にFintechプロジェクトの現状と今後について報告する。仮想通貨ここでは、仮想通貨についての考え方を簡単に紹介する。なお、代表的な仮想通貨であるビットコインについての筆者による入門的な解説1が千葉商科大学のWebサーバで公開されている。仮想通貨に馴染みのない方はあらかじめ一読されたい。オンラインショップで商品を購入する際、その支払い方法としてはクレジットカード、代引き、プリペイド式の電子マネーを用いるのが一般的であろう。インターネットを通じて行われた注文であっても、最終的な決済は外部サーバのデータを更新することで行われるため、いわゆる通貨のように電子データが「流通」するわけではない。インターネット上に通貨と同様の仕組みを構築するための決定的な方法は最近まで知られていなかったが、2009年、Satoshi Nakamoto による論文“Bitcoin:A Peer-to-Peer Electronic Cash System”2(以下、Satoshi Nakamoto 論文)で提案されたブロックチェーン(blockchain)が有力であると考えられている。同OYANO Jun

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